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日章旗のデューズオフ

第10章 【漆】実弥&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



「芸がねェ」
「ッ、……!」
言うが早いか、目にも止まらぬ速さで棒苦無を横から殴り付けられて軌道がずれ、そのまま手首を握り込まれると完全に抑制される。峨嵋刺は俺の脇差を使って鍔迫り合いに持ち込み、巧く食い止められていた。
そうだった、この人は鬼殺隊に入隊する以前は有りと有らゆる武器を手にして独自の方法で鬼を狩っていたのだった。人体の弱所以上に武器の扱いを知り尽くしているから、どうすれば無力化するのかも知り尽くしているというわけか。
「すみませんねぇ、不器用でぇ……ッ」
「だが筋は悪くねェ。的確に急所を突いてる。そこは元忍だなァ」
「……ッ、ぐ」
「やりゃあ出来ンじゃねぇか。何かと余裕振ってのらりくらり躱しやがるテメェに苛付いてたんだが……起爆剤が分かっただけ収穫は有ったなァ」
「起爆、剤……ッ?」
「悲鳴嶼さんを謗られた時の忍耐、育てた方が良いぜェ」
「ッ!!」
――まさか俺の力量見たさに態と悲鳴嶼さんを利用して挑発したのか。肯定するかのように、逆しまの顔で酷悪な嗤いを浮かべた風柱殿は「俺の目に狂いは無かった。今のテメェなら奪ってでも俺のもんにしてやりてェ」と俺にだけ聞こえる声量で低い囁きを落としたのだった。

***

当人に歩調を狂わされたとはいえ、柱へ抜き身の刃を向けた咎は酌量の余地を待たない。悲鳴嶼は情に厚い方ではあるが、規律の前では形無しであり、己の継子であろうが容赦無く厳罰に処す筈。空蝉を無断使用した一件で彼からの信用が損なわれた直後だからこそ痛感する。
「そこの隠。鞘くれ」
「え……、あっ、はいっ」
肝を冷やしていれば風柱殿が勢い良く肩を組んで来た。蚊帳の外で茫然自失に陥っていた後藤を顎で使って脇差の鞘を拾ってくるよう促してから、手慰みで翠刃を翻す仕草が無性に腹立たしい。ずっと彼に振り回されてばかりだ。
「これから嫌というほど可愛がってやるからなァ」
「……」
「……」
初めこそ悲鳴嶼は、腹の底の黒さに反した白雪の頭髪を揺らす風柱殿の様子を静観していただけだったが、顳顬を青く泡立たせて「南無阿弥陀仏」と一節呟くと、先程の比では無い力加減で、睨み合う俺達を引き剥がした。

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