第10章 【漆】実弥&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)
「こっちも日輪刀か?」
「これは脇差。俺、どうしても戦いが激化してくると慣れた逆手持ちしちまうからさ、ならいっそと思ってな」
「色変わりは?」
「勿論する。でも絶対に黒……あ、また見たいだけだろ!」
鉄穴森さんも鉄穴森さんで武具を披露したい気持ちが逸っているのか、次々と荷解きを進めている様だった。「こちらもご確認下さい」と桐箱を寄越されるままに分銅鎖と峨嵋刺も握り上げるが、いずれも濃黒へ変化していく。ぐぬぬ。
眦に烏の足跡を刻みながら涙袋を押し上げて「正解」と嘯いていた後藤が、いよいよ脇差を指し示し、期待を含ませた小粒の瞳を満天の星空みたいに輝かせた。目は口ほどに物を言うって奴だな。隠の彼だと富に実感する。
「ほら、早く早くッ」
「分かったから急かすなよ」
燥ぐ姿を目の当たりにすると、どちらが歳上だか分からなくなる。実際に童顔の後藤が面長な俺の横に立つと、年齢を逆転して見られる事も間々有った。顔立ちどうこうに限らず、内面の豊かさが外見へ影響を与えているのかもしれない。
(……)
真朱に染められた鮫皮が覗く摘巻拵の柄を、目貫の上から握り締める。どう足掻いたって黒に成るだけなのに。まぁそれが見たいんだろうけれど。年上の可愛い同期に苦笑いを噛みながら色変わりを待っていたが……此れが中々に変化を示さない。手首を返して四方八方から観察し続けたところで、終ぞ濃黒に染まる事は無かった。
「……おかしいですね。脇差だけ変化が無いとは」
「……才能がないわけじゃないんスよね」
「はい。そういうことではないと断言出来ます。日輪刀も他の武具も黒色へ変化させた後なのですから、才能は有るという事です」
「じゃあ、複数の武具を所持するから、とか……」
「いえ、それは理由にならないでしょう。過去、二振り以上の武器で戦ってきた剣士は、必ず全ての刃を同じ色に変化させてきました。近年ですと元柱の宇髄殿もそうですし、私が担当している猪頭少年……、嘴平伊之助殿も例に漏れていません」
「じゃあなんで……」
答えが掴めない見解へ相槌のように混ざり込む、痛い程の静寂が煩わしい。聞き耳を立てているのに、二人の声は水中で交わされているかのように濁って聴こえた。打ち拉がれる気を保とうとする余りに耳鳴りが止まないせいかもしれない。
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