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日章旗のデューズオフ

第10章 【漆】実弥&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



「俺たち同期なんスよ。といっても名前がその年の最終選別に飛び入りしてきた形なんで年齢は全く違うんスけど」
「そうなのですか」
「俺が十五の時にコイツが九かそこらだった筈です。年齢の割に戦い慣れてて驚きました。無駄の無い動きで次々と鬼を斬り倒してて」
「なるほど。いやはや新鮮だ。名前君の身の上が聞けるとは喜ばしい限りですね。彼は自分の事を何も話して下さらないから」
(……)
確かに鉄穴森さんとは長い付き合いだが、世間話をした事など無い。意図的に避けていたという節もある。忍の癖が抜け切らない内の俺は日輪刀の扱いに苦心惨憺し、居合抜刀術の為に逆手で振り抜く、反りを考慮しないまま突きに使用するといった無茶をして、折れず曲がらずと称される刀を幾度となく折り、彼の逸品を悉く駄目にしてきた負い目があったからだ。
だから、日輪刀を預ける際には事務的な態度に徹してきた。内心で冷や汗をかきながら、平身低頭でひたすら詫びつつではあったけれど。階級が丁を超えた辺りから破損頻度も減っていたが、慣れてきた頃に油断とは生じるもので。久し振りに鉄穴森さんを呼び付ける事になってしまった数日前も、泳ぐ視線を御しきれていたか自信はない。
(彼の優しさに助けられてる内は気さくに話し掛けるなんて出来ねぇよ。いつかは胸を張って向き合いたいと思ってるけど)
そんな複雑な距離感を保っているとも知らない後藤は、俺への賛辞にまみれた蜜語を鉄穴森さん相手に捲し立てていた。「コイツが居なけりゃ同期は皆死んでた」とか「素直に尊敬している」とか「根性のある奴は支え甲斐が有る」とか、額が熱を帯びるような言葉が次々飛び出している。
こんな時でなければ、畳の目を数えながら後藤の気が済むのを待っているのだが、相変わらず刻が惜しい事情が有る。溜め息ひとつ、後藤の黒衣頭巾の中程へ素早く掌を翳すと、口元辺りに目星を付けてそっと覆った。恫喝し、話の接ぎ穂を失わせる形で会話を切り上げても良かったが、この方が早いし穏便に済むからな。
「ん?」
「後藤よ、気持ちは嬉しい。けど、我が子を自慢する母親かってくらいに話が長い。悪いがそろそろ本題に入りてぇ。悲鳴嶼さんが俺を呼びに来ちまう」

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