第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)
「伊黒大兄も、お久しぶりです」
「ふん。規格外な図体の奴が居ると思えば、やはりお前か」
「本日は俺も柱合会議に呼ばれております」
「柱でもないお前が? 理由は聞いているんだよな」
「すみません、訊いていません」
「己のことだろう。知らないでいてどうする」
「……悲鳴嶼さんは詮索を喜ばないので」
「悲鳴嶼を理由にして現状に甘えているようだな。時には踏み込まなければならない事も有る。受身一辺倒でいるから何時まで経っても実力を発揮出来ず、階級も上がらないんだ」
大兄のこういうところが好感を抱くに値するのだ。霞柱殿のように辛辣な言動、更には相手をねちっこく責め立てる様子を槍玉に挙げられがちだが、彼の言葉は常に真理を得ている。
人間、疚しいところや痛いところを突かれると、晒さずに済むと思っていた己の見苦しい本質を抉り出された怒りが湧くものだから、歯に衣着せぬ物言いをされると、より一層の反感を抱いてしまうのだろう。
俺は寧ろ、将来を慮って苦言を呈して下さる大兄には感謝している。親父は言わずもがな時流を見誤った古い考えの人間だったし、悲鳴嶼はどちらかと言えば放任主義で、大兄のように進むべき道を示す御人は身近に居なかった。真摯に受け止めこそすれ反撥しようとは思わないし、聞き流すなんて勿体無い。
(まぁ、もう少し優しく言ってくれても罰は当たらないと思うけどね)
俺が大兄の言葉に深く頷いて「胸に刻みます」と呟くと、姐さんの方向から『きゅん』という独特の音が響いた。姐さん曰く『ときめいた音』らしいが、今のやり取りに胸を高鳴らせる点など有っただろうか。
彼女は桃色に染まるふっくらとした頬を指先で押さえ込み、華が恥じらって月が身を隠すような可憐な表情で俺を見上げた。慕情ゆえではない。彼女がこのかんばせを向ける時は、大概にして食べ物の話である。
そもそも姐さんは伊黒大兄に想いを寄せているのだ。大兄もまた、姐さんの事を。傍から見て分かる事でも当人同士は気付かない事が間々有るわけで、大兄はこういう時に分かり易く聞き耳を立てながら俺の動向を伺って警戒している。
お可愛らしいと思うのは流石に失礼だろうか。嫉妬などせずとも心配は無用なのにな。俺はお二人を心から応援していますって伝えてしまいたい。噫、もどかしい。
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