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日章旗のデューズオフ

第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



「名前くん、あのねあのね! 今日、とっても美味しい餡子を仕込んだの! また必要になったら言ってね!」
「本当ですか。それなら早速、五貫ほど頂けますか」
「勿論よ! 因みに何を作るか訊いてもいい?」
「善哉にしたいッスね」
「ひゃあッ、良いわね良いわねぇ♡」
炊きたての餡子で拵えた善哉に上新粉を練って蒸した噛み応えのある白玉団子を入れたら、きっと美味いだろう。晩秋の間に仕込んで貯蔵しておいた和栗と薩摩芋の甘露煮を添えれば更に上品な風味に成る筈だ。それを姐さんに伝えた途端、彼女の瞳が一層輝いた。まるで今直ぐ振る舞われると信じて止まない様子が余りにも愛らしくて、つい失笑する。
「……っふ、柱合会議が早く済むようでしたら、姐さんに善哉を振る舞わせて下さい。以前頂いた餡子で恐縮ですが、三貫ほど残っていますから」
「やったぁ♡ 名前くんの作る甘味、大好きなの♡」
「ありがとうございます」
俺達の会話に色気のイの字も感じなかった事で、肩の力を抜いて呆れた様に溜め息を零した伊黒大兄は、昂る姐さんを窘めるように声を掛けると、さっさと踵を返して所定の位置へと歩んで行った。姐さんも上気した頬を抑えつつ「また後でね!」と微笑んでから大兄の隣へと足早に向かったのだった。

***

面頬は、組紐が二度切れた事によって左右で長さに差が生じた歪な造りになってしまった。足せる威糸が手元に無かったという事もあり、割いた三尺手拭いを細く編み込んで継ぎ足したのだが、川底の黒土を暗喩する涅色を使ったから、一見すると元と遜色のない状態にまで復元出来ていた。
「鬱陶しいっつったろォ。何度も言わせんじゃねェ」
「ッう"……!」
そんな小細工も結局は風柱殿の手によって水泡へ帰したわけだけれど。濡れ縁を憮然と闊歩してきた彼が広間へ足を踏み入れた時を見計らって会釈程度の挨拶をした途端、何よりも先に腕が伸びてきて横面を引っ叩かれる。その衝撃は、身に付けたばかりの面頬が吹き飛ぶのに充分な威力だったのだ。
だからなーんで簡単に組紐が切れちまうわけ? 実は短刀や剃刀の刃を所持していて切断してましたと言われた方がまだ安心する御業だ。貴方のその有り余った力は別のところで発散した方が良いですよ……と伝えようか迷うまでもなく止めた。だってその一端を断ったのは俺自身だしな……。

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