第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)
***
その後、渋る玄弥へ退室を促したが、やはり素直に聞き入れて貰えなかった。柱合会議に参加するから時間が無いと懇切丁寧に告げても決して頚を縦に振らない姿に、苛立ちの限界を迎えるのも早くて。
怒りのままに厚い肩口を押し殴り、引き締まった薄い尻を蹴り飛ばす事で無理やり追い出すしか方法が無かったが、これで体罰由来の隊律違反だと咎められるなら、俺はしっかりお館様や悲鳴嶼へ成り行きを上申するつもりだ。
(……噫、拙いッ)
いよいよ猶予が無くなり、燐寸と石油灯火を引き掴んで広間へ駆け込んだ。こんな時間に支度をした事が無いから灯りは念の為と思って用意してみたが、正解だったらしい。月明かりの差し込みが不十分な廊下側は想像以上に暗く、幽々たる闇に覆われている。
(まぁ、でも……)
早々使用しないところではあるが、日頃から掃除を欠かさずにいたお陰か、棕櫚鬼毛の長柄箒で畳を掃き出し、雑巾で濡れ縁を空拭くだけの簡単な手入れで事足りそうだった。床の間へ藪椿の盆栽を置く余裕もあるだろう。
算段通りに手早く支度を済ませると、納戸から高灯台や行灯を幾つか抱え出し、書院造の上座から等間隔に配置していく。廊下側は姐さんが座すから、暗闇で怖い思いをしないよう、配置した物とは別で吊り灯火具を幾つか下げておいた。
(夜の集まりって、昼とはまた違った気の使いどころが有って地味に大変だ)
その全てに真新しい和蝋燭を刺して、芯である紙縒りに一通り火を灯していく。点火が済んだら納戸に蜻蛉返りし、人数分の座布団を一気に抱えて広間へ運び込んだ。己が筋肉達磨で良かったと実感するのはこういう時だな。
「それ、なんの座布団?」
「ッ!」
広間に響いた声の方を振り返ると、不思議そうに俺の腕の内を見詰める霞柱殿が居た。水に溶かした縹色の瞳をゆったりとした瞬きで隠している姿は年相応に幼い印象を抱かせる。つうか、いつの間に真横に居らしたのだろう。戦慄き過ぎて心臓が痛い。
「これは柱合会議で使う予定で……」
「柱合会議で座布団なんか使わないけど」
「え……長時間座るわけですから脚が痛くなるでしょう?」
「別に。万が一に痛くなっても崩せば良いし。気にしたことない」
「さ、左様ですか」
「でも、せっかく準備したのなら一枚貰うよ」
「……承知致しました。お待ちを」
→
