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日章旗のデューズオフ

第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



(大嫌いだこんな奴、お前には風柱殿がいるのに……)
眉尻を下げる玄弥を無下に押し退けて今度こそ自室へ向かう。凪いでいた嫉妬心を引き摺り出されて気分が悪くなったが、柱合会議への参加が控えているのだから何時までも心を乱したままでは居られない。疾く疾く気持ちを切り替えないと。
「……くそッ、不死川兄弟の相手は疲れるッ……」
ほのかに痛む眉宇を揉み解しながら、気が緩んで独り言を呟いた。まさか煮え切らない玄弥が、胸の内を主張する為に俺の後を着いてきていたとも知らずに。自室の襖へ手を掛けた時点で昏い存在に気が付いた。
俺の口から飛び出した実兄を仄めかす発言に、立ち竦む奴の気魄が急激に捻り歪んでいく。何故お前が兄貴の名を、果たして対面の表情はそんな意味合いだろうか。
「……」
「言っておくけどな、俺から近付いてるわけじゃねぇよ。自分が接近禁止命令出されてるからって逆恨みすんな」
「……まるで兄貴の方から岩注連へ近付いてるみてぇな言い方じゃねぇか」
「あのなぁ……立場上、柱の方々とは関わる機会が多いんだ。俺から近付く事、風柱殿から近付く事に特別な意味はねぇ。いちいち勘繰るな、めんどくせぇ」
「勘繰るに決まってんだろッ!!」
中高音の咆哮が暗闇に響く。俺に割り当てられた私的な一室が悲鳴嶼の私室や、客間から離れた位置に有るとは言っても、肺活量のある男児が冬の澄んだ空気の中で力一杯叫べば、何処まで谺して聴こえてしまうか分からない。時刻は未明に差し掛かろうとしていた。
慌てた俺は、二の句を告げようと大口を開けた玄弥の口元を素早く塞いで自室へ引き摺り込んだ。本来なら大嫌いな相手を自分の縄張りに、ましてや密接距離になど踏み込ませたくなかったが、事は急を要する故に仕方が無い。黙らせたら直ぐに追い出してしまえば済む話だ。
「おいッ声が大きいんだよッ」
「む、むぐ」
「……訴えは理解してるから落ち着けよ。自分の兄貴に近付くなってんだろ。俺だってそうしてやりてぇけど、やっぱり任務とか立場とかあるから、そうもいかねぇんだ。私的な感情で私的に近付いた事は無いって誓う。だからもう俺に噛み付いてくるんじゃねぇ。分かったな?」

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