第6章 【参】煉獄&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)
「岩注連! 今後は君の名を呼んでいいだろうか!」
「え、あ……」
「『岩注連』は、岩柱の傍を注連縄のように侍る人間という意味を込めて、周囲が呼び始めた通称だろう! 本名で無い事くらい把握している! だから君の名前を呼びたい!」
「しかし……ッ」
「宇髄は呼んでいた! 遅れは取りたくない! 彼が良くて俺が駄目な理由はなんだ、改善の余地があるなら善処しよう!!」
「ッ分かりました! 分かりましたからあんまり大きな声でそんなこと仰らないでください、炎柱殿の沽券に関わりますよ!」
煉獄さんの胸中が山彦に乗って誰に筒抜けかも分からない現状へ焦燥感が膨らむ余り、とうとう俺が折れると、彼は精悍な横顔を晒しながら「そうか!」と朗らかに笑ったが、次の瞬間には再三となる嫉妬の視線を真っ直ぐ俺の心へ突き立てた。
「それなら君も俺の名を呼ぶといい。杏寿郎と呼んでくれ」
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「ところで名前! 何故、俺の名を呼ばない!」
「それだけは固辞した筈です。上意を尊ばない奴が一人でも現れれば他の隊士に示しがつきません」
「宇髄はどう説明する! また『奴は特殊だから』などとは言うまい! 君の中で彼だけ特別扱いされているようで不愉快だ!」
――『一度緩んだ撥条は二度と締まらない』を体現する煉獄さんは、事ある毎に天元を引き合いに出して強烈な不快感を吐露するようになった。さっきの今でもう俺達以外の名前を出しているが、本人は怒りが先行しているせいで気を使ってられないのだろう。
「では奴の呼び方を改めます。それで妥協して頂けませんか」
「よもや! 何故そこまで俺を拒否する!」
「拒否じゃないです。立場をわきまえて己を律した結果です」
肩を鷲掴んだまま離さない煉獄さんの両掌を剥がすため、適当に騫衣された袖口から覗く逞しい肢体を、体幹に向かって辿るように一瞥していたが、膂力の切れ間を探すうちに気付いた事がある。
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