第6章 【参】煉獄&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)
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話は前日へと遡る。天元がどのように話を付けたのか定かではないが、隊律違反行為はなかったとして、無事にお咎め無しと相成った後、奴は「お前に用向きがあったが日を改めて出直すぜ」と言い残して早々に去っていった。そして煉獄さんの散髪を終わらせて、邸の周囲を散策し始めた折だった。
不自然なくらい無口な煉獄さんの姿に違和感を覚えた俺が、詮索も兼ねて「天元との事、何もお聞きにならないんですね」と伺うと、彼は不機嫌を隠しもしない低い声で「聞きたくないからな」と一蹴した。
いやに冷たかった。まぁ煉獄さんは元々興味の有る無しに関わらず人の話を聞き損じる気来があるし、打っても響かない日も有るかと納得しかけたが、束の間、僅かに先を歩んでいた彼は砂利を踏み躙って勢い良く俺を振り返った。
「君の口から他の人間の話を聞きたくない。興味もない。度量が狭小な男と思うかもしれないが、俺と君しか居ない時は、俺と君の話以外したくない。厳密に言うと俺と君の今後の展望以外、話す気はない」
「……――」
――どうして煉獄さんを前にすると酷く息が詰まって緊張してしまうのか、この時になって悉く理解してしまった。岩漿が煮え滾る紅蓮色の瞳、圧倒されるほど美しい琥珀色の金環……それらが織り成す双眸が差し向けられる時は決まって、彼は激昂していたのだ。
竈門を伴って和室へ足を踏み入れた時も、天元と揉み合って押し倒された時も。彼は強靭な精神力を以て極限まで感情を抑え込んでいたようだが、それでも溢れ出す熱情が印象的な双眸を介して届いていた、という事だ。他人の心の機微に鈍い俺でも流石に分かってしまった。
(――嫉妬、して……?)
煉獄さんは絶句する俺を視界に収めると、再び踵を返して真新しい砂利を踏み締め始めた。打って変わって溌剌とした大音声を響かせるものだから、少し山彦が鳴いている。それとも、彼の発する言葉を聞き漏らしたくないばかりに、俺の耳がおかしくなったのだろうか。
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