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日章旗のデューズオフ

第6章 【参】煉獄&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



「名前」
「おはようございます、悲鳴嶼さん。すみませんが炊き始めたばかりですんで、まだ掛かりますよ」
「分かっている。いつもありがとう」
湯上り特有の蕩けるような熱を帯びた巨躯を揺らして俺の前までやって来た悲鳴嶼は、大きな掌でゆっくりと頭を撫ぜてくれる。彼に優しく触れて貰える時間が好きだ。何物にも代えがたい多幸感を得られる。
お館様に保護されて直ぐに彼へ預けられた餓鬼の時から、一進一退を繰り返しながら育んだ関係性を、今の今まで覆す事無く慈しみ続けてくれる態度は、俺の屈折した心をゆっくりほぐしていった。俺にとっての兄とは彼なのだ。慕って尊敬している人はこの人だけ。
一頻り撫で終えて満足したのか、悲鳴嶼は「後ほど」と穏やかな声音で囁いてから鴨居を潜っていった。その姿が見えなくなっても幸せを噛み締めるように揺れる暖簾を見込んでいたせいか、居残っていた煉獄さんに優しく笑われてしまった。
「ッすみません! お恥ずかしい姿を!」
「なに、恥ずかしいものか。君にも気を許せる相手が居て安心した。それが悲鳴嶼なら尚更安心だ。宇髄相手の態度を見ていて心配していたが、杞憂だったな」
「天元は、特殊で……」
奴の名前が出た瞬間に頬を引き攣らせて口籠ると、煉獄さんは瞳を零さんばかりに目縁を見開き、一閃の如き迅さで距離を詰めてきたかと思えば、萎縮する俺の両肩を力強く鷲掴んだ。
掌から伝わる体温は悲鳴嶼の余焔など目じゃないくらいで、散り出る火樹銀花が見えそうなほどに熱く迸っている。近付く健康的な香りと相俟って、此方の意識が眩々と傾いていく。
「ッつうか近――」
「悪かった。俺と君しか居ない時は、互いの話しかしないと我儘を言ったのは俺なのに。この話はここで終わりだ」
そう言って金環の双眸を煌めかせた煉獄さんは、見た事も無いような艶を含む微笑みを噛んだ。脳が焼け付くような話はまだ彼の中で終幕していないのだと悟って、胸の内が奇妙な潤みを帯びていく。

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