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日章旗のデューズオフ

第6章 【参】煉獄&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



湯上がりだからと言い切るには苦しいほどの細かい汗が、彼の首筋やこめかみに吹き出しているのだ。顔色はほんのり色付くほど上気していて良好そうなのに、言葉を良く食む唇だけが少々血色を悪くしている。
(……!)
良く耳を澄ませると、咽頭を過ぎる呼吸音がぜいぜいと乱れていた。微かに掠れて震える声は感情の昂りによるものだと勝手に決め付けていたけれど、そうではない。煉獄さんに咳嗽の症状が表れかけている。
「煉獄さん……」
「杏寿郎だ、名前!」
こんな状態では健常な人間であっても呼吸すら困難な筈なのに、俺に名を呼んで欲しい一心で、不規則に苛んでくる咳気を抑制している。
気力が勝っているのか、全集中を使って緩和を試みているのかまでは分からない。これを健気と評して見過ごすべきか無謀だと諌めるべきかも、正直なところ判断しかねた。
「煉獄さん、もう大声を出さないで下さい。胸に障ります」
「っ……」
だから素直に伝える事にした。貴方が心配だと。言葉は跳ね除けられ易いから、態度で。引き剥がそうとした彼の熱い掌を逆に俺の背中へ回させ、煉獄さんの身体を正面から労るように抱き締める。
俺より一寸ほど低い筈の身長は、密着すれば急に気にならなくなって、寧ろ対面していた時より上背が高く思えた。それだけ姿勢が悪かった事に気付かなかったなんて。
やはり、続々と込み上げる咳気を押し止めているせいか、ゆっくり摩る背中からはびくりびくりと痙攣する内臓の蠕動が分かって、同情の念が禁じ得ない。そうさせてしまっている罪悪感も相俟って……煉獄さんの要求を飲む他無くなった。

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