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日章旗のデューズオフ

第16章 【拾参】時透&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



これで腋窩動脈まで傷付いていたら流石の俺でも回復に刻を有したが、木刀を支える為に肩を内旋していた事で、奇跡的に裂傷を回避したらしい。まぁ抜く算段を付けるとなると、それも怪しいが。
(……これは投げて使うもんじゃねぇっての)
笄に似た細長い物体の正体は──峨嵋刺。本来は俺の所有物であり、風柱殿にくすねられていた例の一本に相違ない。棒身中央の猿環に中指を嵌めて近接戦闘で敵を屠るための暗器を、苦無の如く投擲して寸分違わず『ここ』を穿つとは。
「見て学べんのがテメェだけだと自惚れてんじゃねェだろうなァ名前よォッ!!」
「……ンなわけないでしょうよ」
先頃、伊之助の経穴を狙ったのは日輪刀を取り落とさせる刻の一度だけ。いくら石筆の痕が残るとはいえ、猪突猛進と動き回って汗と埃に塗れた伊之助の肩から、正確な一点を把握するなど困難な筈。
それともまさか適当に峨嵋刺を投げて、当たり所は運否天賦だと割り切っての横暴なのだろうか。蓋し、型破りな戦い方を柔軟に取り入れられる風柱殿なら、奇を衒った搦め手の行使も充分有り得る。野性的な荒々しさの裏に潜む、底知れぬ機転と観察眼。やはり、この男は計り知れない。
(仕方ない、峨嵋刺は抜かずに戦う。右手の痺れが治まってきたから、たぶん問題ない。でも)
──不敵に咆哮しながら一歩前に出た風柱殿とは対照的に、一歩後ろに退がった霞柱殿の姿を見逃さなかった。その朧気な琥珀糖の瞳が明確な意思を孕みながら揺れ流れ、目配せという名の合図を送った事にも気が付いた。その合図の先に杏寿郎さんが居る事にも。
「君の覚悟、しかと見届けたぞッ! 名前ッ!」
杏寿郎さんの朗々とした鬨聲が、溌剌とした吶喊が、強かに鼓膜を打つ。警戒しながら眄目すれば記憶に無い構えが俺を捕捉していた。あれが鬼事形式の柱稽古で唯一仕込めずにいた玖ノ型なのだと、直感が告げる。

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