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日章旗のデューズオフ

第16章 【拾参】時透&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



そして、彼より常軌を逸しているのは霞柱殿の瞳。数刻前までの怜悧な彼からは想像もつかない程の、ドロドロと煮凝る焦燥と苛立ちが宿っている。結ばれた薄い唇が微かに震えるのは、想定通りに動かぬ俺への憤り故か。
(……胸騒ぎがする、此方から動くべきか)
俺達の間に横たわる中距離を埋める為と嘯いて、二人の技を鸚鵡返ししても良かったが、何故かそれは悪手な気がした。であるならば、水の呼吸の『雫波紋突き』や蟲の呼吸の『真靡き』、炎の呼吸の『不知火』辺りが有効に思う。
或いは先達て、機先を制した竈門が放った仔細分からぬ灰燼の突き技でも有効打となるだろう。まぁ『凪』を行使した今、呼吸法の切り替え短縮の観点から鑑みても『雫波紋突き』が理に適っているか。
(水の呼吸 しち──)
──しかし、ここで不測の事態が起きる。水平に寝かせた刀身の峰部分を左掌の虎口へ当て添える『片手平突きの深構え』で半身を引いた刹那。何の前触れもなく、左肩より遠位が不随意な痙攣に襲われた。標的を噛み殺す虎狼の顎を模した構えが、水の呼吸最速の刺突を放つ寸前で崩壊したのである。
本来の平突きは敵の肋骨の隙間や喉元を貫く技であり、原則として手添えは必要ない。然りとて今は、右前腕の致命的な痺れを補う為に必要だったのだ。当然、支えを失った木刀は呆気なく滑り出ていってしまう。もはや握った感覚すら怪しい掌から──無情にも、するりと。
「ッ……」
猛り狂う気魄を際限なく沸き立たせる二人の前で、悠長に気を窶している暇はないというのに。状況を瞬時に把握しなければならないというのに。遅れて知覚した燃えるような痛みと猛烈な虚脱感が、緊急の折に成って思考を鈍らせる。果たして『空蝉』を繰り返し使い込んだ副作用がついに己が肉体を蝕んだのか、それとも。
(動揺を顔に出すな、考える事を止めるな、集中を極限まで高めろ……)
誰に対するでもない小さないらえを呟き、全身の隅々へと意識を巡らせて、筋肉や血管の状態を確認していく。同時に、戦慄く指先で皮膚表面を辿ると、左肩の腱板……経穴を、笄の様な細長い物体が穿ち抜いていた。切先が深部にまで入り込んでいるせいで経脈そのものを遮断されている。道理で腕が上がらない筈だ。

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