第16章 【拾参】時透&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)
態とらしい笑顔を相貌へ貼り付けつつも煽動する言の葉とは裏腹に、手元から力を抜いて木刀を引いた。挑発に次ぐ挑発に首尾良く乗り続け、意識が攻撃一辺倒へ傾いていた二人の我武者羅な推進力を利用する為である。
体重や腰の力を前方へ伝えて自分自身や剣先を相手の打突部位へ押し切るほどの推進力が支えを失うと、体軸は均衡を崩して不本意な沈身を余儀なくされるものだ。案の定、行き場を失った二人の殺意は虚空を斬り、俺の足元へ堕ちていく。
(水の呼吸 拾壱ノ型──)
それでも未だ油断は出来なかった。鬼殺隊内で頒布される、基本的な情報が記載された『歴代呼吸の書』に拠れば、霞の呼吸には突き上げる技が有るし、風の呼吸には体幹を崩しても斬り上げられる技が有るらしい。重心を盗んだからといって一先ず安心……とはいかないのが抜かりない部分である。
(──凪)
雅号の通りに流麗な水の如く。捌きを含んだ全身動作を最少に留めながら、摺り足で一気に後退し、二人から距離を取る。予想通り、元居た地点で『垂天遠霞』と『黒風烟嵐』が曇天の空を衝き上げた。
(……霞が、黒い)
正しき呼吸を為して成される型に付き従う、視覚に訴え掛ける美しい効果の全ては玉響の幻という話だが、二人の感情が乗っていると断言するには淀みの深い濁りの奔流を、果たして清き剣士の正道が見せる錯覚のせいにして許されるだろうか。黒く烟る嵐に攪拌されて穢れた霞が、底の尽きない泥濘へ誘おうと蠢いている様は、どちらかといえば『俺寄り』だ。
(……)
柱としての理知も、剣士としての辛抱も何処へやら。二振りの残心が交差する腕の隙間から、逃げ場を塞ぐように俺を射貫く二対の瞳はやはり『俺寄り』である。
風柱殿の血走った紫光の瞳は、もはや模擬試合で見せるべき其れではなく、獲物の喉笛を食い千切る機会を逃した獣の、剥き出しの飢餓感と殺気が、逆立つ白雪の髪と共に大気をビリビリと震わせていた。
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