第16章 【拾参】時透&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)
(……ここで杏寿郎さんが入ってくんのかよ)
一種の脇構えを思わせる体勢は、木刀を頸の横に翳しながら沈身する独特のものだった。半身を強く捻った反動で焔の羽織が大きく羽撃けば、手元が身体に隠れて死角となり、敵に一切の間合いを計らせない。そういった実利的な脅威から、爆発的な踏み込みと共に炎龍が牙を剥くのだろう。
あれこそが一家相伝の炎の呼吸が誇る、至高の奥義。見て対処する此方との相性が悪過ぎる。俺も風柱殿を見倣って運否天賦で木刀を振るってしまおうかとも考えたが、全く現実的ではない。時機を読んで鍔迫り合いに持ち込めたとしても、今度こそ利き腕の感覚が本格的に鈍くなる危険性が有る。
(また『凪』か、或いは花の呼吸の『御影梅』か……、岩の呼吸の『岩軀の膚』……)
咄嗟に中型背嚢へ手を伸ばして──逡巡する。分銅鎖を使えば悲鳴嶼の日輪刀の動きを再現出来るが、満身創痍の現状で岩の呼吸を扱えば間違いなく俺の肉体そのものが崩壊するだろう。それでは防禦をした意味が無くなる。
「炎の呼吸 玖ノ型 奥義──」
「ッ」
戦場に於いて躊躇いは命取りとなる。迷いは手元を鈍らせる。分かっていたのに何故、手を止めてしまったのか。後悔する間もなく、天地を割り裂くような轟音と共に螺旋状の炎が目前まで迫っていた。
(……噫)
視界が灼熱の焔に覆われていく。美しい太刀筋の逆袈裟斬りが、息が枯れるほど酸素を喰らい尽くしながら降雪を弾き進み、無防備な俺の左肋へ吸い込まれる。
──それだけではない。爆ぜる炎の熱気を振り払う様に跳躍した風柱殿が冠履倒易しながら『韋駄天台風』を放っており、その鋭利な剣気は頚筋へ肉薄。
更に霞柱殿が霞始靆ような揺蕩う目隠しを纏いながら『月の霞消』を繰り出し、その広範囲を網羅する刀捌きで、懐まで潜り込んできていた。
(……くそ、……避けようが、……ねぇ)
第十三話 終わり