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日章旗のデューズオフ

第16章 【拾参】時透&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



「悲鳴嶼さん」
悲鳴嶼の旋毛を見る事になるのは、これが最初で最後だと願いたい。太陽に一番近いところで生きる彼の膚から気が緩むような暖かな香りを吸い込む事になるのも、これが最初で最後だと願いたかった。
「悲鳴嶼さん、俺の身体、『空蝉』使っても、壊れなかった」
「ッ」
「俺は、戦えます、もうあの頃と、違う」
「……愚か者め」
直情的な言葉を紡ぐ凄みの効いた聲が、鼓膜より早く背骨の髄に響いたかと思うと、瞬時に頚元へ圧力が掛かる。悲鳴嶼の巨大な掌に抹茶色の羽織ごと鷲掴みにされたらしい。
彼の肋を膝で締めて離れ難く工夫していた筈が、やはり純粋な膂力には抗えなかった。戦いの最中である事を忘れそうになるくらいの恋しい温もりが、暴力的な速度で遠ざかる。
「──南無阿弥陀仏」
「っ、ぐ」
視界が円を描いて捻じ切られた。悲鳴嶼の体躯が巨大な投擲機へと変貌を遂げ、俺の身体を弩の射出が如く、前方へ投げ飛ばしたからだ。限り有る同行の際に、彼の日輪刀の対極に付属する突鉄球が唸りを上げながら鬼の頸を破壊する様を数回ほど見た事があったが、あの歪みが俺の身体に生じているらしい。
対策を講じなければ、外方へ鋭い回転が掛かって体勢が崩れ、呼吸もままならなくなってしまう。上下左右を不覚にしながら砂利へ叩き付けられる無様な姿を晒してしまうだろう。
縦しんば受身に成功したとしても、霹靂一閃の峰打ちから早々に復帰した霞柱殿達に着地を狙われるに違いない。全身に突き刺さる複数の視線と、逆襲に燃える血気盛んな気魄が、俺の想定を裏付けている。
(──)
肺腑の空気を無理やり搾り出されるような重力に脳が白んで思考を飛ばすのは、三流のする事だ。死を回避する事に長けた一流は考える事を止めない。記憶を辿り、受身に応用出来る型を即断即決、盤上を再構築する。戦場での決断猶予は常に僅かばかりなのだから。
(風の呼吸 伍ノ型──)
悲鳴嶼が生み出した複合的な投擲力へ抗うのではなく、同調して利用する。自らの体軸を投げの軌道に合わせ、更に加速させるように腰を捻り、斬撃の旋回に上乗せする。落下の衝撃を剣気と風圧で相殺しつつ、機を窺っていた周囲への防禦を同時に行う──効率的で狡猾な手段をとれる型は、これしか無い。

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