• テキストサイズ

日章旗のデューズオフ

第16章 【拾参】時透&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



一転して少年は焦りを滲ませた。此処にきて初めて見せる後手の態度である。弾かれたように自らの細い頚を摩り、未発達な喉仏を大きく上下させて唾液を嚥下した。形良く弧を描いた唇と、幼さの残った眦が引き攣るさまは、俺に睨まれる意味を漸く理解したのだと分かって溜飲が下がる。人が悪いなど今更だ。
「分かったろ。俺が名前を追い詰めんなっつった理由。此奴も元を辿れば忍だ。俺よりも才能が有る一等残忍な虎狼の輩。嘗めて掛かると命を拾い損ねるぜ、時透よ」
鋭い忠告とは裏腹に、派手な爪紅が目立つ掌が小さな頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。瓶の中で泡立つラムネのように水縹色が掻き混ぜられていくのを一瞥しながら、俺は木刀の柄を、軋むほど握り締めていた。

***

開戦を告げた天元の「殺すなよ」という裂帛の気合いが冬空を叩く。それが四人への『柱として当然勝てよ』という鼓舞だったのか、俺への『挑発に乗らず自制しろよ』という警告だったのかは分からない。
「霞の呼吸 漆ノ型──」
「風の呼吸ッ 壱ノ型ッ!」
逡巡の隙さえ許さぬ機先は、揺蕩う霞と荒れ狂う暴風によって奪われたかに思えた。二柱が同時に間合いを詰めてくる速度は、並の剣士ならば一種の覚悟を決める程だが、死の淵を覗き続けてきた忍の動体視力には、その一歩一歩が鈍く映る。
彼らが掲げる『剣士の正道』は余りにも美しく、清らかな道である。外道を往く俺はその清さを簡単に嘲笑える。踏み躙る事が出来る。天元の言う通り、一等残忍な虎狼の輩なのだから。
土塊も壊せぬ地霞など、条も鳴らせぬ微風など、今の俺が恐れる筈もない。霞柱殿に焚き付けられるまま己が内の残虐性を剥き出しにして、鏖戦の技術的選択肢を無制限とした俺を、その程度の速さで凌駕出来ると思い込んでいるのなら、勘違いさせてしまった分、却って申し訳なさが勝るというものだ。
(……)
眼窩に添えた手庇に雪の粒が降りる。ヒタ、とまた降りる。触れた雪華は忽ち融けて、静かに雫へ還って往く。朝から酷い冷え込みだとは思っていたが、昼近くに成って降雪とは、些か気が回っていなかった。数日前の昼過ぎと同じ粉雪のようだ。

/ 215ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp