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日章旗のデューズオフ

第14章 【拾壱】岩&風&霞(鬼滅/最強最弱な隊士)



「お優しいんだから、ほんと…………姐さーんッ!!」
「ッ!? 名前くん……ッ!?」
俺の大音声を嫌でも聴き拾った姐さんは、華奢な肩を揺らして喫驚すると、桜餅のように愛らしい色味を有する結い髪を跳ね上げさせながら此方を振り返った。余裕の無さそうな表情が酷く同情を誘う。伊黒大兄達も同じ気持ちを抱いていたのか、険しい表情で睨め付けては来るものの、水を差した俺を怒鳴り付けたりはしなかった。
「これが終わったら邸で朝餉、食べてって下さーい!! 荻野食堂さんの朝餉定食を完全再現で、麦飯は……いや、白米は五合分!! もちろん食後はお約束の善哉も作りまーす!!」
「……え、えぇッ!? ほんとぉッ!?」
「しかも栗と薩摩芋の甘露煮を悲鳴嶼さんの椀より三倍増しで盛りまーす!!」
「そ、そんな……、そんなご褒美があるなら……、頑張るしかないよぉッ!」
俺の鼓舞を受けた彼女は笑顔を咲かせ、その頬は一気に可憐な桃色を取り戻した。ふんすと鼻息を荒らげ、両の拳をぎゅっと握り締めて天高く突き上げた姿は、先程までの気の毒な姿とは対極に在る。すっかりやる気に満ち溢れた様子で木刀を構え直していた。
(……お可愛らしい)
伊黒大兄が好きになるのも頷けるなぁ、と眦を緩めながら今度は合蹠に座り直して足首を掴む。だが、それを阻む細い腕と水縹色の影。噛み付くように横から握り込まれた前腕が徐々に鬱血していくのを感じる。
認知出来ないほど薄く霞んでいた彼の気魄が初めて読み取れたと手を叩いて喜ぶのは後にした方が良さそうだ。此方に対して明らかな悪感情を抱く若者には、無駄な刺激を与えてはならないと相場が決まっている。
「呆れた。今、甘露寺さんを物で釣ったの」
「……鼓舞って言葉をご存知ない」
「知ってる。でも今のはどうかな。彼女を軽んじたんじゃないの」
「姐さんが喜んでいるんですから問題ないのでは。それに、食事をご用意しますとお伝えしただけです。俺の為に骨を折って下さる上司を労おうといった意図しかないですよ」
「見方ひとつだよね、それは。僕は軽蔑したよ、貴方の事」

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