第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)
「獣の呼吸ッ 肆ノ牙ッ――」
「……花の呼吸 伍ノ型――」
至近距離で放たれる二人の猛攻を捌ききれずに右顧左眄して体幹を崩し掛ける"ふりをした"。そんな俺の姿を竈門は見逃さなかった。灰燼の呼吸音ののち、額の痣の形を変える。
そうして繰り出された久遠を想起させる円環の太刀筋を回避しようという瞬間、猛き焔を纏う切先が陽炎のように揺らいで刀身を伸ばし、胸元を掠めた。
羽織と着流しと薄い皮膚が横一文字に切り裂かれて無様に血飛沫が上がる様を他人事のように見下ろしながら、内心で北叟笑む。
(人間相手でもやればできたな、竈門)
目的を成し遂げる為の助走が長く、初動で窮地に立たされ易い諸刃の剣のような奴は相当数居る。竈門がまさにそれであったというわけだ。
兎にも角にも、これで『多対一の高度な戦闘を経験させる』という俺の役目は十二分に果たせたのではなかろうか。今の顛末で型も粗方仕込み終わった筈だ。その証左とばかりに、天元が締めの合図を高らかに告げた。
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「それはそれとして……お前、服……」
後輩の成長と引き換えに、俺が失ったものは甚大だった。腹斜筋まで覗けるほど妄りがましく緩んだ衿と、がっつり切れ目が生じた羽織と着流しとで、前身頃が鳩尾を中心に四分割された惨い状況である。
日々の鍛錬で成長が著しい筋肉を収める為には、ゆとりが有る和装が最適だった。隊服は相変わらず胸や尻や大腿が窮屈なまま。出来れば書生シャツも着たくない。着ない方がマシだと痛感するほど、風柱殿並に破廉恥極まりない開襟をする羽目になるからだ。
(……前田を呼ぶよう後藤に頼んでおけば良かった)
凍てついた冬の空気が無遠慮に吹き込んでくる度に、唯一所持する装いを駄目にされた実感が湧き上がってきて涙を飲む他ない。四つ角に分かたれた布地を手慰みに摘みながら項垂れる。
「ぇ、あ……、あッ! すみませんッ! 乳房がッ!」
「発達してるからって乳房言うな、胸筋と言え」
素っ頓狂な事を抜かす竈門が慌てて駆け寄ってきて、公序良俗も何もないほど顕になった俺の胸を、両手で何とか隠そうとする。今し方まで漲る殺意を乗せた日輪刀を振っていた男とは思えない姿に毒気が抜かれた。
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