第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)
(……仕方ねぇ)
角帯へ差していた日輪刀を鞘ごと抜き、咄嗟に背面で袈裟懸けする。尤も、この場合は頸に翳す形になるが。直ぐさまガツンと打ち込まれてくる藍鼠と淡桃の軌跡。四振りの刀と鞘が、耳元近くでガチガチと鍔迫り合う音が癪に障る。
竈門を挑発した時、日輪刀を使わないと大見得を切ったも同然だったから、これでは些か格好が付かないかと逡巡すれど、防戦の内は数に入らないだろうと独善的に結論付け、目の前に集中する事にした。
「こンのぉぉぉ……ッ!!」
「二対一、なのに……ッ!」
「小柄な自分達を恨め、後輩」
優位な立場から圧し斬ろうとしたところで、俺と比べて上背も筋肉量もない伊之助達にやり遂げられる事ではない。硬くも脆き悪鬼の頸と弾力の有る人間の頚は断ち斬り易さが段違いで異なるから、仮に刃が到達しても、彼らの思い通りにはいかないだろう。そんな非力な奴らだから、手首を軸にして日輪刀を一周翻しただけで、簡単に弾き飛ばされちまうんだ。
「ぅおっ!」
「ッ……!」
体幹を崩され、太刀筋を乱された二人の胴腹は脇が開いて空き放題だ。翻した弾みで長い下緒が解けたのを確認し、すかさず伊之助側へ刀を振ると、抜刀を抑え留めていた下緒を無くした鞘が一気に射出される形となり、彼奴の腹部へと突き当たる。
そして、戸惑いながら俺の前腕に縋り付いていた竈門へは足払いを仕掛ける。よろけた彼奴の胸元を思い切り押し込めて仰向けに押し倒し、乾いた大地へ縫い付けた。俺も同時に膝を折る事で全体重が気道へ加わり、灰燼音を通す繊細な器官を圧迫する。
最後は油断ならないカナヲへの攻撃に移行する。膝を着いた姿勢から右脚だけを真横へ伸ばし、右斜め後方の地面へ四半円状の擦過痕を残すように下半身を差し回しながら振り返る。すかさず立ち昇らせた砂埃の向こうへ、遠心力を利用して濃黒の鞘を振り放った。
「う"っ……!」
やはりカナヲは鞘の打撃に反応してきた。冷静沈着な気質も然る事ながら動体視力と身体能力にも優れているとは、その身空で凄い事だ。上体を横に薙ぎ払われて不利な体勢で転倒しないよう八相の構えを崩さず堅実に受け流し、力を往なそうと努めている。
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