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日章旗のデューズオフ

第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)



俺は目に映したものを忘れる事が出来ない人間で……だから空蝉が機能するのだけれど、観察対象の全動作を把握する際には『隙』も同時に理解出来た。網膜に焼き付いて消える事のない連続的な瞬間を記憶として呼び起こし、いつでも確認出来た。
(だから分かる。お前達の"膂力の切れ間"がいつ訪れるのか。記憶の中のお前達が見せた隙と、今のお前達が見せた隙が符合した時だ)
再現性の証明など必要ない。一度重なれば構わない。意図して同一の隙を再現する奴など余程の変態だと割り切って都度対処すれば良いだけだ。幸い実力は有る。俺にもそれなりの臨機応変さは有るのだ。
さて、然う斯うしている内に竈門が肘を引いて霞の構えをとった。迷いが振り切れていない幼い紅鶸を眇めた瞼で翳らせながら、灰燼の呼吸音で呼気を吐き出す。柄紐がギチギチ鳴るほど柄を握り締めて、炎の鍔の揺らめきを完璧に制御した。
(今――)
大地と胸腹を平行にしたまま一息に距離を詰め、緑と黒が目を惹く市松紋様の衿を力の限り手繰り寄せる。近付いた分だけ狙い易くなった手の甲を蝋で殴り、彼奴が痛みから刀を取り落とすまでの寸暇を惜しんで、痙攣を見せる腕にも蛇の這うが如き白線を描き施す。
「――ッい"、伊之助ッ、カナヲッ!」
「がははははッ!! 良し来たッッッ!!」
「花の呼吸 弐ノ型――」
竈門が二人の名を叫んだ刹那、視界で無数の星が弾ける。次いで溢れるような熱と鈍痛を鼻梁に感知。鍛錬では克服罷り成らない人間の弱所である人中に、強烈な頭突きを受けた。剣技もへったくれも無い、単純な頭突きを。
(嘘だろッ、此奴ッ……)
衿を掴む俺の前腕を遠慮無しに鷲掴んできたかと思えば、痛みに歪む相貌を忽ち鬼気迫る表情に挿げ替えたから、一体どんな隠し玉を披露してくれるのかと浮き浮きしていたのに。わざと攻勢を緩めて誘い込んでおいて、こんなの有りか。
うなじに二つの風切り音が迫っている。合図を貰った伊之助とカナヲが素早い回転斬りで俺の頸を狙っているのだ。見事なまでに理想的な釣り野伏せ。計略を相談する暇など殆ど無かった筈なのに、この息の合わせようときたら憎らしい。

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