第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)
「後ろだ名前ッ!」
(……ッその筈だった、のにな!)
杏寿郎さんの、発破の如き大音声による警告を受けて反射的に飛び退くと、俺が居たところを上下に引き裂くようにして、鮮やかな花の軌跡が一気に咲き乱れた。鋭く踏み込んだカナヲが全力の薙ぎ払いを仕掛けてきたらしい。
(花の呼吸……! 現存してるのか……!)
俺の誘導に釣られる事なく、状況を見極めて背面からの急襲を選択し、合理的手段を取れるとは大したものだ。挺身の彼女に脇をすり抜けられた水柱殿と姐さんが吃驚している姿は、逼迫した精神に僅かばかりの癒しを与える。それ程までに彼女の行動は死をちらつかせた。
カナヲは、おっとりした雰囲気に反して類稀なる冷静さを有しているらしい。修行場という空間に於ける柱達は心理的に『蚊帳の外』と認識しがちだが、彼女はそう捉えなかった。常識に囚われず、環境に適応して戦っていくという一点では、あちらさんに軍配が上がっている。
(ッは。肝が据わってら……)
体勢を立て直しつつ竈門の元へ走っていくカナヲ。その横腹を突かれないよう、前へ躍り出て罵声を飛ばしながら注意を引く伊之助。成程、彼らは支え合って戦う事に非常に慣れているようだ。単独任務しか経験のない俺には不思議な光景に映った。
「…………」
しかし、どうもおかしい。この手合わせの目的を承知している筈なのに不自然に攻勢が緩い。俺の為を思うなら代わる代わる立ち回って次々に型を繰り出し、間断なく攻めてくれた方が有難い。自分達の為を思うなら、少しでも俺を消耗させて、余裕を崩していった方が良いだろうに。
(のんびりしてられねぇから、此方から仕掛けさせて貰おうか)
軸脚を残して右脚を引き、姿勢を低く落として通常の呼吸を整える。中空に石筆を弾いて投じては掴むを幾度か繰り返し、三人の膂力に切れ間が生じたかどうかを見零さないように注視した。
膂力の切れ間は、脳味噌と神経回路を有する者に必ず付き纏った。鬼ならば跳躍する直前や爪を振り降ろす直前、隊士ならば呼吸を扱う直前や日輪刀を振るう直前、予備動作と謂われる無意識下の初動で、瞬間的に必ず、無防備に成り得た。
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