第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)
何の躊躇も無く斬りにきた姿勢は賞賛に値する。俺の言い付けを従順に遂行したというよりも、手合わせでも実戦でも常に全力を発揮しているだけなのだろう。それで良い。鍛錬と実戦に差が無ければ無いだけ十全の備えとなり、有事には万全の実力となる。
(ただ、やっぱり遅いな)
斬撃が俺の頸を斬り落とすより早く、筋肉質な腕を支える腱板へ石筆を押し刺して刺激する。彼が痛みを知覚して日輪刀を取り落とすまでの僅かな隙に後方へ跳躍してしまえば、肉迫した事実も水泡に帰す。
「なんッ、痛ッてぇな何しやがったッ!!」
「経穴を突いただけだ。まぁ理解する必要はねぇよ」
「クソがッ!! 呼吸も使えねぇ味噌粕の癖して変な事ばっかすんじゃねぇッ!!」
「おー、酷いこと言うもんだ」
――伊之助の指摘は半分間違いで半分正しいといえる。俺は玄弥のように完全に恵まれなかったわけではない。全集中も常中も、回復の呼吸も問題無く扱える。だから『使えない』と言うのは半分間違い。
そんな俺に適した唯一の呼吸、お館様が課した誓約の盲点を突く形で独自に編み出すしかなかった我流の呼吸が有ると知ったら、周囲はどんな反応を見せるだろうか。悲鳴嶼は喜んでくれなさそうだから、想像すらしたくない。
(死なない努力、欠かしませんでしたよ、お館様)
ただ、どんな任務に赴こうと機会は訪れなかった。そもそも程度の知れた雑魚鬼相手には、忍の遁術と戦略と日輪刀さえ有れば苦戦を強いられた事など無かった。だから結果的に『使えない』と言うのも半分正しいのだ。
(――っと)
一転、二転、三転と倒立回転を繰り返し、手負いの二人から距離を取る。このまま予想通りの三段撃ち戦法であれば、油断が生じ易い今頃を見計らってカナヲが斬り込んでくる時機だが、さてどうする。
敢えてお歴々の方々が静観する真正面に位置取る事で、カナヲの動線を上方・左右方・前方に集中させた。背中に目が付いていない都合で、其方の完全な死角を打ち消しておきたかったのもある。
本来これは、撤退を偽装して相手を充分に引き付けたのち、側面へ伏した部隊に奇襲を仕掛けさせるといった、釣り野伏という計略を成す為の立ち回りだが、今回の様に攻撃範囲を限定して動線を誘導する事にも利用出来る。
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