第13章 【拾】炭治郎&伊之助(鬼滅/最強最弱な隊士)
「始めッ!」
一帯に囂々と響き渡る瀑声にも掻き消されない天元の明瞭な合図で、手合わせを兼ねた『依り代計画』の幕が切って落とされた。竈門達と俺の間に更なる緊張感が生じたのは言うまでもない。
機先を制したのは竈門だった。岩、雷、炎、風、今まで耳にしてきた全ての呼吸に当て嵌らない、悉くを灰燼に帰すような熱を帯びた呼吸音。それが耳に届くと同時に、火炎の様相を呈する玉響の幻を纏った刺突を繰り出してくる。
早い段階で切先が到達する直線的な攻撃で出方を探ろうという魂胆か。或いは己が身を犠牲にして、俺をひとところに縫い留め、伊之助とカナヲに斬らせる心算か。何れにせよ、格上だと定義する相手に対して貴重な初撃を無駄にし、中途半端な立ち回りを見せるとは肩透かしだ。
(……殺す気で来いっつったろうがよ)
殺意が乗らない刃など恐るるに足らず。常日頃より目隠し有りきで風柱殿の打ち込みを耐え凌いできた俺からすれば、尚のこと稚拙に思える。俺を弑するかもしれない恐怖が手元を狂わせているのか、安定した太刀筋とも言い難く、火炎の幻も呆気なく消失していく。
上弦の鬼を数多屠った戦歴の割に期待外れである。やはり人間を斬った経験が無いと、真剣で対峙する度胸が備わらないものだろうか。忍だった俺と違って普遍的な家庭に生まれた奴の身分なら、当然仕方ないと言えばそれまでかもしれないが。
「怯えるな」
「ぐッ、ぇ"……ッ!」
軌道を読みつつ最小の動きで避け、擦れ違いざまに無防備な胴腹を蹴り上げた。竈門は突きを躱された後の事を想定していなかったのか、一切の防御態勢を取らなかった。思い切り打撃を被った証拠とばかりに、弾力が強い臓腑の感触がもろに膝へ伝わってくる。
「おい、大丈――」
「惣八郎ッ、そこを動くんじゃねぇぞッ!!」
「――……」
反吐を吐いて膝を着く竈門へ叱咤激励を飛ばす間もなく、蹲った奴の背後から、日輪刀を振り回して咆哮する伊之助が飛び掛かって来た。予想に違わない二段撃ち、いや、カナヲが未だ斬り掛かって来ないから三段撃ち戦法かもしれない。
竈門に続いて此方も聞き慣れない呼吸音だが、何処となく風の呼吸と近しいか。伊之助は胸の前で腕を交差させると、即座に刃を俺の縄目痕に押し込み、一気に外側へ振り抜いた。
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