• テキストサイズ

日章旗のデューズオフ

第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



岩注連は傲慢な性格だと一部に流布されたらしいが、俺が迷惑を掛ける側という認知であるなら其れは其れで良かった。悲鳴嶼が『継子を軟禁した罪人』ではなく『出来損ないの継子を持ってしまった哀れな師』となるからだ。
本当に悲鳴嶼の為を思うのなら、必要悪と成る選択は間違っていた。しかし、管理責任という言葉も、その重要性すら理解出来ない時分では、組織に蔓延っていく悪しき意識を払拭して回るなど考え付きもしなかったし、目の前で日に日に気を窶していく彼の心を守ることで手一杯だった。
このままでは本格的に居所が無くなるだろうという瀬戸際、軟禁を続ける悲鳴嶼へ一家言与える為、いよいよお館様が来邸される。無論、俺一人を心配してというよりは隊全体の士気の低下と、伴って発生する秩序の乱れを危惧されての事だろう。
(……)
その帰り途次に俺の私室へ立ち寄って下さったお館様は、怪我の経緯に耳を傾けた後、唐突に「剣士を辞める選択肢も有るんだよ」と仰った。世迷言を、と思わないでも無かった。
俺が即座に拒否すると「鬼殺隊にはね、後方支援を主軸にした隠という子たちも居る。無理に前線で戦う必要は無いんだ」と食い下がった。悲鳴嶼に何をどう説得されたのか、随分『彼寄り』な提案だった。
それでも頑なに頚を横に振る俺に対して、ゆらぎが心地好い穏やかな声が「理由を聞いてもいいかな」と先を促したので、恭しく双手礼の姿勢を取る。
「鬼殺隊士として戦って鬼殺隊士として死にたい」と大言壮語で口火を切った後、「上意に命じられるまま命を使い捨てて終わるのではなく、自らの意思で大切な人を守って死にたい」と懇願した。
当時は拙い言葉で伝えたものだが、お館様は、酸いも甘いも噛み分けた経験のない餓鬼の戯言だと聞き流さず、真摯に向き合って下さり、「君の熱意は充分伝わったよ」と前置きをして、美麗なかんばせに微笑みを浮かべた。
「名前。ひとつ、約束を交わそうね。君の身体が充分成長した頃、君の技術が充分成熟した頃を見計らって、私がその稀有な能力の使用許可を出そう」
『死にたい』という発言はあくまで骨を埋める覚悟の現れだったし、言葉の綾に過ぎなかったけれど、御方は、俺の中に潜む自覚のない希死念慮を汲み取られたのだろう、それはそれは丁寧に諭して下さったように思う。

/ 176ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp