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日章旗のデューズオフ

第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



「私はね、可愛い子ども達の死を、名前の死を望まないよ。許可を出す時までは行冥の言う事を良く聞いて、死なない努力を欠かさないこと。それと、鍛錬を怠らないでいるようにね」と、締め括られた。
それから三日と経たずに軟禁は解除され、直ぐにお館様から誓約書が送られる。俺はその誓約書を肌身離さず持ち歩く事に決め、殆ど外した事のない革帯へ仕込む事にした。

***

柿渋のお陰で高い疎水性を有している良質な生地を、鉄媒染で黒鉄色に反応させた逸品こそが俺の持つ革帯である。里から持ち出したものではなく、鬼殺隊に入ってから悲鳴嶼より贈られたものだ。
保護した当時、縄目の裂傷で頚の爛れが酷かったらしい。瘡蓋が剥がれ落ちた後も治りきらない瘢痕を気にする素振りを繰り返した俺へ心を砕き、財を割いてくれたのだ。
首を締める物品を他人へ贈ると宜しくない逸話が付いて回ると知ったのは極最近だが、悲鳴嶼に限ってそんな思惑を込めているとは思えなかった。如何にも怪我だと見て呉れで分からないよう、包帯ではなく革帯という装飾品を選んでくれた事は彼なりの配慮だと受け留めている。
(……)
これが今でもしぶとく頚の皮膚を歪に引き攣らせているのだから忌々しい。悲鳴嶼と遭う前後の記憶が曖昧で、どのような顛末が有って傷を負ったのか未だに分からない事も苛立ちに拍車を掛けている。扼頸痕こそ無かったが、結局はそんな所にそんな痕、胸糞悪い理由にしか突き当たらないだろう。
(何かを苦にして自分で首括った可能性もあるし……悲鳴嶼さんやお館様へ聞くに聞けない事のひとつだ)
三つ折りに畳まれた薄い革帯の内側に、お館様直筆の誓約書が有る。御方から許可が出た以上は悲鳴嶼にも、命令遂行に於ける優先順位が変化した事実を理解して貰わなくてはならない。
恐らく俺の元へ誓約書が届いた段階で、保護者たる悲鳴嶼へも同じ書類が届いているか、話が通っているとは思う。彼が空蝉関連で俺を叱る時の癖を顧みても『お館様との約束を反故にするな』という意味合いがあったに違いないのだから。
先刻に飲み込んだ熱い吐息を今度こそ轟々と吐き出しつつ、尾錠へ指を掛けて小穴から手早く突棒を引き抜く。手の内に落ちて収まったそれを固く握り締め、気を強く持った。

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