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日章旗のデューズオフ

第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



喜ぶ暇は無かった。俺の力量をしっかり感じ取っていたか確認したくて、興奮のまま悲鳴嶼を振り返った瞬間、未成熟な肉体が意図も容易く崩壊する。何の前兆も無く鮮やかな血をごぷりと吐いた。身体を捻った反動で肋が砕け、肺に刺さり、喀血したのだ。
原因は岩の呼吸を使用した事による疲労。正しい呼吸と反復動作を欠いているにも関わらず、ましてや練度や経験が全く足りていない癖に、悲鳴嶼と同等の威力を捻出した事が問題であった。
予め容量が決まっている箱の中に規定を超えた量は入らないように、小さな身体に絶大な能力が納まるわけもない。無理やり詰め込めば、やがて箱は内圧に耐え切れず破裂する。これが俺の身に起きた道理だろう。
(……道理は、いつも俺の邪魔をする)
さて、これが見事に悲鳴嶼の古傷を抉った。今し方まで無邪気に喜びを露わにしていた継子が、目の前で痙攣しながら頽れる凄惨な光景は、寺で起きた事件を想起させるのに充分であったらしい。鬼に惨殺された子供達と、血塗れで悶え苦しむ俺を重ねてしまったのである。
悲鳴嶼の献身的な看病のお陰で内臓の損傷自体は半年も待たずに完治したが、彼はその出来事を機にして岩の呼吸を取り上げた。そして「外殻だけを取り繕った虚な力は二度と使うな」と強く強く言い含めて禁じたのだ。
(……その時の憔悴した姿が忘れられない。だから彼の言い付けは守ろうと決めたんだ。御方が許可を出して下さる日まで……)
暫くすると規模を問わない討伐任務が舞い込んで来るようになる。激戦が予想される地域を選り好み、勇んで向かった単身任務を難なく終えて帰還したところ、自身の目が行き届かない場所へ俺が出向く当然に対して不安と恐怖が最高潮に達した悲鳴嶼は、軟禁という強硬手段をとった。
その間は鎹鴉に適当な理由を伝達させて任務を断る他なく、稀ではあるが、共に戦う筈だった相手方の鴉が飛来し、恨み言や嫌味をねちねち啼き捨てていく時も有って困り果てていた。
外部からは俺が好き好んで引き籠もっている様に見えているらしく、継子である事を笠に着て任務もこなさず驕り高ぶる餓鬼を、周囲が蔑称で呼び始めるのは自然な流れと言えた。
(……呼び方なんてどうでも良かったし、宇髄を名乗るわけにいかなかったから、訂正もしなかったな)

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