第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)
「……誤解だよ」
「ええ。分かっています。私の思い過ごしです。岩注連さんには岩注連さんの苦労があって手一杯だった筈なのに、私は貴方に共感を求め続けてしまった。本当にごめんなさい。長らく無礼を働きました。この通り、謝罪致します」
「ッ、やめろ、しのぶ。頭を下げるな」
小さな身体が更に小さくなってしまい、肝が冷える。俺は慌てて彼女の頬へ両手を伸ばし、細い顎先を掬い上げるように、ゆっくりと此方を仰ぎ見させた。覗き込んだ相貌は化粧で誤魔化せないほど血色が悪くて、心苦しくなる。
「君に余裕が無い事なんて承知してた。柱としてではなく胡蝶しのぶとして接していた事が追い詰めていたのなら、謝るべきは俺の方だ。ごめん、しのぶ。ごめん」
「……」
俺が捲し立てると、彼女の眦に滲み出る涙が見えた気がした。咄嗟に親指の腹で拭ってみたが、濡れた感触はない。堪えない憂慮に差し挟まれて戸惑っている内に、細い指先が手の甲に触れ、やんわりと掌を剥がした。
「……やはり甘い人ですね。とても」
「……」
「さあ、カナヲ達の元へ参りましょう。貴方の責務を果たして下さい」
束の間、カナエさんの形見が羽撃いて、翻ってゆく。その綺麗な輪郭をじっと見詰めていると、青の瞬間と呼ばれる美しい冬空の元に溶けて消えゆきそうなほど儚い風体と称した姿が、本当に消えて無くなりそうに思えた。逃さない様に背後から掻き抱きたい衝動をぐっと抑え付け、彼女の後を追従するに留めたのだった。
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――再び時は遡って八年前、件の約束から数ヶ月が経った頃。痩せぎすだった身体にも肉が付き始め、捨てるには惜しいと渋って貰えるかくらいの体型で迎えた最終選別も無事に突破し、岩柱の継子として邸に住まう様になった或る日のことである。
敬愛する悲鳴嶼からの初見取り稽古の場で、すっかり浮き足立っていた俺は、切り捨てられる前に早く自分の有用性を示したいと気が逸るまま、見様見真似で岩の呼吸を扱った。
黒刀だから岩の呼吸の適性は期待出来ない、と彼の肩を落とさせたばかりだったから、今以上の失望を与えない為に余計気合いが入っていたのかもしれない。陽光が瞳の奥を焼く夏真っ盛りな炎天下で、所作、威力とも完璧に、岩軀の膚を模倣して見せた。
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