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日章旗のデューズオフ

第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



「先刻は無闇に論ってしまいました。貴方を叱る名目でも無いと周囲が番犬だらけで近付けませんでしたので。改めて撤回致します。岩注連さん、貴方は私達の刻を無駄にしていません」
「……そうか」
俺の変化に気を取られなかった彼女は、そのまま話を続けていた。打って変わって可憐な微笑みを噛みつつ耳打ちしてくる姿に釣られて相好を崩す。つい仲間言葉を食んでしまうが、特に苦言を呈される事も無かったので、安堵の吐息を漏らしながら上体を起こした。
(……良かった、わざとだったか)
彼女の行動の違和感も解消されて胸が空いたからか、目の前で揺れる柔らかな前髪を無意識に優しく撫でる。出会った頃より幾らも伸びた桔梗色の愛嬌毛が、特に触り心地も良くて好きだ。相弟子は俺の行動に苦笑いを浮かべながらも甘受し、極々小さな呟きを食む。
「……触るなと何度も言っているのに。貴方は昔からこうでしたね。私と姉さんには事ある毎に甘かった。鬼殺隊に入隊しようと奮闘していた時も入隊出来た後も、私達の心の支えとなるくらいには、甘い人でした」
「甘やかしてた自覚は無かったけど……」
「自覚があったら大変です。人の好意に鈍感な姉さんが歳上の威厳も何も無く戸惑うほどでしたから」
当時のカナエさんの様子を思い出したのか、しのぶは至極可笑しそうに肩を揺らして笑った。しかし直ぐに眉宇を歪めて苦虫を噛み潰したような貌をする。取り繕うように微笑もうとして失敗し、美しい蝶の髪飾りが良く観察出来るほど俯いてしまった。
「しのぶ……」
「何時からその優しさが憎たらしくなったのか」
「……カナエさんが亡くなった時だろ」
「……はい。姉さんが亡くなってからは余裕が無かった。心が復讐で雁字搦めになっていて、やるべき事に追われる日々でしたから。そんな時に昔と変わらない態度で接されると、独りで憤り続けている今の自分を蔑ろにされた気がしたんです」
「……」
「私と違って、貴方は姉さんが亡くなった事実をとっくに昇華しているのだと、姉さんの事を想っているのは私だけなのだと思わされて、それが凄く悔しくて、憎かった」

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