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日章旗のデューズオフ

第12章 【玖】胡蝶&悲鳴嶼(鬼滅/最強最弱な隊士)



時に崖を越え、時に沢を越え、そうして元忍ならではの俊敏性を活かして道無き道を選んだから、広間に居た時から最後尾だった水柱殿とほぼ同時に到着出来ていた。
(……)
遅参を詫びる事にならなくて済みそうだと胸を撫で下ろしていたが、そう易々とはいかないようで、鎹鴉が危惧した通り、俺に求められていたものは誰よりも先着して出迎えるくらいの意欲だったというわけらしい。
確かに失った刻は回帰しない。赦せない気持ちも理解する。さりとて必要以上に指摘していては、それこそ刻の浪費に繋がりかねないのではないか。他の意図が無い限り、刻を使って刻の浪費を咎めるなんて本末転倒だ。彼女の二律背反な行動に微かな違和感が残る。
「――よっしゃあッ!! 一番乗りは俺様だッ!!」
「一番乗りは伊之助じゃないよ。もう柱の皆さんだって居るじゃないか」
「た、炭治郎。伊之助はそういう意味で言ったんじゃ、ないと思う……」
程なくして、大音声と共に駆け足でやってきた竈門達が修行場の土を踏んだ。天元が己を引率と称したのは真実のようで、奴は俺達に気易い断りを入れて身を翻すと、所在無く辺りを見回していた彼らの元へ颯爽と向かって行く。
「岩注連さん、少し良いでしょうか」
自信に満ちた頼もしい背中を見届けた折、声を潜めた蟲柱殿が羽織りの袂を摘んで軽く引いてきた。身を屈めろといったところか。周囲に聞かせる訳にはいかない話でも有るのだろう。身体を指矩のように折り曲げ、彼女の口元に頬を寄せて耳を傾けた。
「拝聴致します」
「手短に失礼します。昨日、煉獄さんの件でお館様の元を訪ねた際に貴方への言伝を遣わされました。こう言えば分かると仰られていたので、言葉の通りにお伝えします」
「はい」
「『許可するよ』」
「ッ!」
甘言に触れ、全身の肌に漣が起きる。期待と興奮が入り交じる不健康な喜悦が全身に至る頃、俺の中で沈黙を貫いていた官能が悉く呼び起こされていた。とはいえ蟲柱殿の前だ。衝動の支配を受けない為に熱の篭った息を飲み込むと、頚に巻き付く革帯へ触れて己を律した。

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