【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第4章 一富士二羽ノ【正月番外編】
途中、寒くて凍るかと思ったよね、とぶるると身を震わせた天童の手にはコーンポタージュの缶が握られている。それを一口せがんだ朔弥に気前良く残り全てを差し出した彼は、とりあえずお参り行こっか、と境内へ続く石畳を進み始めた。
悲願の全国制覇――。賽銭箱に小銭を入れて手を合わせる六人は、目を瞑り心の中でそれぞれに誓う。
東京で行われる春高バレーの本戦は、数日後に控えている。
この中で一年からずっとスターティングメンバー入りが決定しているのは牛島だけだ。二年になってやっとベンチ入りすることができた天童、大平、瀬見、そして山形は、強豪校ゆえに自身へ与えられる数少ないチャンスをものにできるよう切に願った。その真摯な横顔を朔弥はそっと見守る。彼らが全力を出しきり、できるだけ悔いの少ないプレイができますよう、そう願った。
「あ、おみくじ。今年も引いてく?」
境内の砂利道を歩きながら、朔弥が指差す。
「俺、去年大凶引いちまったんだよなあ……」
「マジかよ! 大凶なんて本当に存在するんだな」
「俺も初めて見た」
「若利と朔弥は大吉だったのに、なあ」
「さすが持ってない男ナンバーワンの英太君!」
「なんだとっ?」
どうどう、と笑いを噛み殺し宥める朔弥は、瀬見の肩にぽんと手を乗せた。
「大凶を引き当てる確率って大吉より低いらしいじゃない? 逆に持ってるって、英太」
「それフォローのつもりか?!」
歯を軋ませて唸る瀬見の背を押して、一回百円だし俺出すからとりあえず引いてみよ、と巫女に千円札を手渡す。六回分で、とにっこり微笑む朔弥を見て、ぽう、と彼女の頬が桃色に染まる。年明け早々から罪作りな男め、と大平は肩をすくめつつ御神籤筒を手に取った。
全員でじゃらじゃらと派手に音を鳴らして棒を引き出す。それぞれに出た数字を伝えられた巫女はようやくハッと表情を引き締めて、棚から御籤箋を取り出し慌ただしく手渡した。
「みんなくじは貰った? って、若利、それ!」
「おま、今年も一番かよ!」
牛島の手に握られた御籤箋の表に書かれた番号を見た朔弥と瀬見が目を剥く。マジで? と手元を覗き込んだ天童もまた、高い声を上げた。
「ヒョー、今年も大吉確定じゃーん!」
「まだ開いていないが、わかるのか?」
「一番は大吉がほとんどらしいぞ」