• テキストサイズ

【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第4章 一富士二羽ノ【正月番外編】


 早朝、新しい一年の始まりに相応しく空は澄み、青く晴れ渡っていた。牛島家の玄関先で、はあ、と吐く息は真っ白だ。赤く染まった鼻先まで埋もれるように、ぐるぐるとマフラーを巻きつけた朔弥と共に歩き始めた牛島も、似たような格好で寒さから身を守る。
「ほんっと、寒い……!」
「冬とはそういうものだ」
「それにしたって氷点下だよ! うう、爪の先から凍りそう」
 ちりちりと痛む指先をすぽりとマフラーの中に突っ込んで、ふうふうと吹き温める。幼さを醸し出すその朔弥の仕草に、すれ違った老齢の女性が、あれま可愛らしい、と笑う。彼女の持っていた破魔矢の鈴が微かに鳴った。

 じっと信号待ちをしているだけで、今にも靴底とアスファルトが凍結しそうだ。睫毛まで凍るー、とぱしぱしと瞬いてみせる朔弥の横で、ブブッと震えたスマートフォンの画面を確認した牛島が小さく目を見開いた。
「天童から、先に着いた、と連絡がきた」
「えっ、まだ集合時間になってないのに!」

 歩く速度を速めて、目的地へ向かう。進むにつれて、人の通りも多くなってくる。山の麓、朱色の大鳥居のすぐ下の道路脇に、一際目を引く背の高い集団がいた。各々ガードレールにもたれたり腰掛けたりしていた彼らは朔弥たちに気付くと、おーい、と大きく手を振る。
「おっ、きたきた」
「若利くーん、朔弥くーん! あけおめことよろー!」
 鮮やかなオレンジのダウンジャケットにジーンズ姿の天童が、声を張り上げる。朝早いんだから騒ぐと迷惑だろ! と慌てた様子の瀬見、その横で大あくびをして涙目になっている山形。大平はそんな彼らのことを見て苦笑しながら、よう、と朔弥たちへ歩み寄る。
「明けましておめでとう。若利、朔弥」
「明けましておめでとう」
「今年もよろしくお願いします!」
 ぺこりと頭を下げ、簡単に新年の挨拶を済ませると、ぱっと朔弥は顔を上げた。
「みんな早いね!」
「集合時間はまだ三十分ほど後のはずだが?」
「ああ、お前たちの一本前だと思うが、英太と乗った電車が同じでな。早く着いてしまったんだ」
「俺と隼人君はね、自転車飛ばして来たんだよー」
/ 54ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp