第11章 裏で動いた恋模様
‐みつside‐
扉を叩く音で目が覚める。
一番に視界に入った見慣れない天井に、ちょっと驚いたけど、すぐにケージくんの家である事を思い出した。
ノックする音は、まだ続いている。
このアパートは少し古くて、インターフォンが壊れてしまっているから、部屋を訪ねるなら扉を叩くしかない。
だからって、寝ていた私を起こしたレベルって事は、かなり長い時間叩き続けている筈だ。
それなのに、諦めないなんて、留守だと思わないんだろうか。
ケージくんは不在だと伝えてやった方が良いんじゃないか。
そう思って近付いた玄関。
「赤葦、居留守使ってんじゃねぇよ。」
歩く足音に反応したのか、扉越しに聞こえた声。
私にも覚えがある人のもので、扉を開けようとした手を止める。
顔を合わせたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
このまま、黙ってやり過ごそうとしたけど。
「…そういや、りらがこのアパートの合鍵持ってたな。連絡してみるか。」
そんな事をしている場合では無くなった。
姉ちゃんに連絡されるのだけは困る。
慌てて扉を開けると、そこに居た声の主、テツローくんと目が合った。
その表情は確信犯のように笑って、見せつけるように空の掌を振っている。
「こんな朝っぱらから、連絡なんかするかよ。木葉と居たら悪ィしな。」
スマホを取り出しすらしていないのに、姉ちゃんの名前を出されただけで慌てて、あっさりと騙されてしまった。