第11章 裏で動いた恋模様
‐きとりside‐
シャワーを浴びて、居間の方に戻ってくるとテーブル上に料理が並んでいる。
この家で一人暮らしを始めてから、ちゃんとした手料理をここで食べた事がなかったから、見慣れない光景だ。
それを作ってくれた赤葦は、テーブルの端に座っていて手招きしている。
「食べましょうか。ゆっくり、話をしましょう。」
その言葉が、とてつもなく重い気がして、動けなくなってしまった。
「きとりさん、そう構えないで下さい。別に取って食う訳じゃないんで。
今朝の話、本気ですから無かった事にはしませんけど。」
そんな事を言われたら、ますます動けない。
赤葦は、立ち尽くした私を暫く眺めて、溜め息を吐いていた。
「…りらには、正式に告白する事が、出来ませんでした。それは、彼女を神格化していたから、本気で手を出せなかったのも、あります。でも、言わなかった後悔が無い訳じゃない。」
少しずつ、強くなっていく口調が怖くて、ビクッと肩が跳ねる。
だから後悔しない為に言わせてくれ。
赤葦が、そう言いたいのは分かっているのに、どうすれば良いか分からない。
聞かないと拒否すれば、赤葦の事だから、自分の気持ちばかりゴリ押ししてくる事はない。
だからって、その選択肢は、覚悟を決めてこっちにまで来た赤葦の感情を握り潰すだけ。
「…すぐに、返事出来なくても、良い?」
「はい。出来れば俺がこちらに居る間に返事を貰えれば、嬉しいですけど。待ちますよ。」
考えに、考え抜いて出した答え。
返事を保留するのも、生殺しみたいで悪い気はしたけど。
本気の告白をバッサリお断りする勇気も、嫌いじゃないから付き合ってみる勇気も、どちらも無かった。