第11章 裏で動いた恋模様
‐きとりside‐
無理に明るく笑って仕事をしていると、疲労感は倍以上で。
疲れ果てて終了した仕事。
ご飯も食べないで、シャワー浴びて寝てしまいたい。
だけど、家に帰ると赤葦が居る。
話の続きを、この状態で聞くのは酷である。
それでも、帰らないとシャワーも布団も無い訳で。
諦めて家に戻った。
扉を開けた瞬間に、家の中から漂う香ばしい匂い。
ちょっと焦げた、醤油の匂いだ。
食事も要らないと思っていたけど、この匂いには弱い。
これは、日本人の本能だと思う。
誘われるように、フラフラと台所へ歩いていった。
そこには、赤葦が立っていて、私に気付いたのか振り返る。
片手に、フライパンを持っていた。
「おかえりなさい。」
「た、ただいま。」
私にとっては、目の前で起きている事が現実から掛け離れている。
それなのに、出迎える挨拶は、あまりに普通過ぎて目を瞬かせた。
「どうかしましたか。」
「いや、あの。赤葦って料理出来んだな、って。驚いて。」
「出来なくは無いですよ。」
赤葦の視線は、すぐにフライパンの方に戻って、その中身を箸で混ぜながら会話をしている。
喋りながら作業が出来るなら、それなりに慣れた事なんだろう。
作業の邪魔にならないように、その場を離れて風呂場に向かった。