第11章 裏で動いた恋模様
‐赤葦side‐
俺の出した指示の通りきとりさんは動いて、家の鍵だけ置いて出ていく。
その背中を見送りながら、目覚ましに助けられた、と本気で思った。
人の為に、自分を犠牲に出来る強さを持っている女性に惹かれる。
俺が、多分この人に惹かれたのは、りらの為に自分が独りになると決めた話を聞いた時だ。
その直後に、りらに物理的な大きな傷を負わせてしまった話を聞いても、この人を恨もうなんて気持ちは起きなかった。
その頃から、きとりさんにも憧れていた。
ただ、俺は認めたくなかった。
ずっと、想ってきた人間はりらだけなのだと、一途なフリをしていた。
あんな、ストーカー紛いの事をして。
先輩達まで使って、他の人も含んだ同居の形でも傍に居る権利を得たんだ。
りらを好きでなければ、そこまでしないだろう。
そう思い込んで、自分を正当化してたんだ。
だから、とっくの昔に生まれていた、もう1つの恋心を隠し続けていた。
これを、正直に全部話しても、りらが話の中に入り込んでくる以上、気持ちを疑われる材料にしかならない。
運良く、きとりさんが仕事で出ていってくれたから。
今の内に、信じて貰えるだろう理由を考えようか。
りらと違って、少しは夢見る女性らしい部分のある彼女にとって最高の理由を。
今更、作り込んだ嘘の理由を吐くのに罪悪感なんてない。
フラれるつもりで、こちらに来たけれど。
きとりさんが欲しいと思ってしまったから、手に入れる為なら何でもしよう。
後ろ暗い考えが頭を巡って、自然と笑ってしまった。