第11章 裏で動いた恋模様
‐赤葦side‐
昨晩の、この人は。
やっぱり、女性である事を認識させてくれた。
酔って、甘えたくなったのもあったんだろう。
寝かせようと布団に下ろしても、俺の腕にしがみついて。
うわ言のように、独りにしないで、と呟き続けていた。
その声は弱々しくて、仕事なんか辞めて、向こうに帰らず一緒に暮らしてしまおうか、なんて馬鹿な考えが過ってしまう程のものだった。
本当の眠りに落ちる直前、呼ばれた名前は俺のものじゃなかったけど。
それを話して、この人に未練を自覚させてやる程、優しいつもりはない。
寧ろ、無自覚な内に、その感情を俺に少しでも向けて貰えれば良い、とか。
黒い事を考える方の人間だ。
なんとなく、この人と黒尾さんの関係は終わっても、感情としては終わっていないのに気付いていた。
だからこそ、フラれるのが目的で来た筈なのに、傍に居てやりたいと願ってしまったから。
まずは、俺を意識させる事から始めようか。
「俺、きとりの事が好きなんだ。」
「…え?あ、有難う。私も、スキだよ。」
「‘家族’として、じゃないよ。女性として、きとりが、好き。」
掴んだ手の力を強める。
冗談として、処理させはしない。
きとりは、言葉を理解しようとしているのか、瞬きを繰り返しながら黙り込んでしまった。