第11章 裏で動いた恋模様
‐赤葦side‐
俺を疑っているのか、警戒心の強い猫のような眼がこちらを向いている。
だけど、この人の根っこは驚く程に単純で。
「ネットで、場所を調べたんですよ。観光していたら、いい時間になったので。
そろそろ出てくるかと思って連絡したら、ドンピシャでしたね。」
少し顔を緩めて、不信に思っただろう行動の理由を語ると、警戒を解いたのが見て取れた。
「なんだ。そうなの?だったら先にメールなり、してくれれば良かったのに。」
顔を綻ばせて、近寄ってくる姿に、単純過ぎて、いつか悪い人間に騙されるんじゃないかと心配にすらなったけど。
全てにおいて、俺を信用した訳じゃ無さそうだ。
微妙な距離を残して、足を止めたから。
まだ、少しだけ俺を疑おうとするのは、こちらに来た目的を知らないから。
この人は、りらと違って人の感情を読める方だ。
下手な嘘を吐いて、バレて面倒な目に遭うのは得策じゃない。
それなら…。
「突然、お邪魔しようとして、すみません。理由は、最後の日に話します。
だから、俺と恋人ごっこして貰えませんか?」
「…りらに彼氏が出来たから、気でも狂っちゃった?」
「そうかも、知れませんね。」
偽りの無い目的を伝えると、きとりさんは眉を寄せて眉間に皺を刻む。
でも、その顔は怒っているというよりは、心配していて。
「飲んだ勢いのオフザケとか、ノリじゃないなら。キスとか、それ以上は出来ない。だけど、手を繋いでデートぐらいはしてあげる。
あ、こっちに居る間、うちに泊まるなら同棲カッコカリになるだろうけど。手を出さないなら、付き合ってあげるよ、恋人ごっこ。」
条件付きで、良い返事をくれた。