第11章 裏で動いた恋模様
‐きとりside‐
赤葦が、こっちに来る。
盆休みに、有休まで付けて10日も滞在するとか、何事だ。
しかも、ホテル取ってないから泊めてくれ、なんて、いらないオマケつき。
確かに、夏といえばのリゾート地だけども。
そもそも、海とかではしゃいだりする男じゃないし。
裏がある気がして、返答を渋っている内に、その日がやってきてしまった。
シーズン真っ只中で、今更ホテルを取れなんて出来ない、と言うか不可能。
航空券だって、よく取れたなと思っているレベルだ。
半分以上の諦めの気持ちを持ちながら、今日の仕事を終わらせた。
職場から出た途端に、スマホが音を立てる。
昼間には到着して、どこかで待っていただろう赤葦からだった。
野宿をさせる訳にはいかないし、合流しなきゃならないから電話に出る。
でも、喋る前に切れて。
「…きとりさん、お久し振りです。」
数メートル先に、その人が立っていた。
こんなに近くに居るなら、電話の必要があったんだろうか。
赤葦の行動に不信感ばかりが募って、挨拶すら返せない。
何が目的かを探るように顔を眺めても、昔と変わらず仕事をしない表情筋の所為で真意は読み取れなかった。