第28章 沖縄旅行は海の香り
「…なんだぬ、それは?」
「わさび&からし。おじさんぬの鼻の穴にねじこむの」
キャップを軽快に外し、悪魔の笑顔に逆戻りなカルマ君。
「なにぬ!?」
「さっきまではきっちり警戒してたけど、こんだけ拘束したら警戒もクソもないよね」
カルマ君はそう言いながらにゅる、とわさびとからしを出しグリップの鼻の穴をグイ、と持ち上げた。
「これ入れたら専用クリップで鼻塞いでぇ…口の中にトウガラシの千倍辛いブート・ジョロキアぶちこんで…その上からさるぐつわして処置完了」
『そなえあればうれしいな』と書かれた袋から次々と出てくるいたずらグッズ。
「さぁおじさんぬ。今こそプロの意地を見せる時だよ」
さっきよりの100倍爽やかに笑ったカルマ君は容赦なくグリップの鼻にわさびとからしを突っ込んだ。理科の実験をしている愛美ちゃんのように見えなくもない…というかそっくり。
「…殺せんせー、カルマ君特に変わってなくない?」
「…ええ、将来が思いやられます…」
渚君と殺せんせーの会話に紛れて、
「モガアアアアア!! モガ…モ……」
というグリップの悲鳴。その悲鳴が途切れるまで、私達は横で鳥肌をたたせて眺めていたのであった。
しばらくして、ようやくカルマ君はいたずらをやめた。グリップの悲鳴も聞こえない…というか叫びすぎて声が枯れたのだろうか、それとも叫ぶ気力も無くなったのだろうか。とにかく聞こえなくなったことは確か。
さて進もうとした道中、愛美ちゃんが、
「京香さん、先ほどカルマ君から渡されたガスのスイッチ、見せてもらっていいですか?」
と言ってきた。
「ああ、全然オッケー。どうぞ」
愛美ちゃんはふむふむとガスのボタンを眺めている。
「こうやって見ると懐中電灯みたい。電源の所はスイッチで、ライトの所がガスの発射口みたいな」
「はっ、確かに……あの形を参考にしたのでしょうか?」
その目はたしかに科学者だ。そんな愛美ちゃんに、
「奥田さーん、奥田さんに貰った悪臭化合物は使わなかったよ」
とカルマ君が笑顔で話しかけてくる。
「ああ、あれは使うと私達もしばらく鼻が使い物にならなくなってしまいますから……」
と穏やかに笑う愛美ちゃん。私はカルマ君に
「ってかさ、カルマ君あのー、『そなえあればうれしいな』って書いてあった袋、何入ってんの? わんさか物出てきたよね」
と話しかけた。
