第28章 沖縄旅行は海の香り
ガスだ。
さっき、烏間先生を潰したガスのスイッチを、グリップが持っていた。
「長引きそうだったんで、『スモッグ』の麻酔ガス。試してみる事にしたぬ」
ニヤリと意地悪そうに笑ったグリップに、皆が嫌悪感を露わにする。
「き…汚ぇ。そんなモン隠し持っといてどこがフェアだよ」
「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ」
グイ、とカルマ君の頭を手一つで持ち上げるグリップ。
「拘る事に拘り過ぎない。それもまたこの仕事を長くやってく秘訣だぬ。至近距離のガス噴射。予期してなければ絶対に防げぬ」
……うん、それは確かにそうなんだけどね。
今回は相手が悪かったみたい。
グリップがよそを向いている隙にカルマ君は何処かから出したガスのスイッチを押した。
烏間先生も倒れかけたガスにグリップは崩れ落ちる。
「な…なんだと…」
「奇遇だね。2人とも同じ事考えてた」
カルマ君もさっきのグリップに負けず劣らずな笑い方をしている。口元にはハンカチ。どうやらそれでガスを吸わずに済んだらしい。
グリップはガクガクしながら胸元に手を入れ、ナイフを取り出した。今の自分の状況、その他諸々の疑問に対する苛立ちからか、眉間に皺を寄せカルマ君に一気に駆け寄った。
「ぬぬぬうううう!!」
しかし冷静じゃない刃は届かなかった。カルマ君はナイフを持った手を挟み込むようにして腕を掴み、そのまま柔道の決め技のように人間が動かせない方向へ勢いよくグリップの腕を持っていった。メキメキという音が聞こえる。
「ほら、寺坂早く早く。ガムテと人数使わないとこんな化けモン勝てないって」
カルマ君が余裕そうに笑うと寺坂は、
「へーへー」
と言ってカルマ君の方へ駆け出した。
「テメーが素手で1体1の約束とか、『もっと』無いわな」
それに引き続きみんなもカルマ君に近づき、倒れているグリップの体の上に思い切り乗っかった。
「ふぎゃッ」
という声とともにまたミシッという音。ご愁傷さまです。
「縛る時気をつけろ。そいつの怪力は麻痺してても要注意だ。特に手のひらは掴まれるから絶対触れるな」
烏間先生の呆れたような褒めてるような声にはーい、と朗らかな返事をし、皆はテキパキと作業をし始めた。