第28章 沖縄旅行は海の香り
皆がどうしようもなく固まっていると、あちらが先にアクションを起こしてきた。
私たちから向かって右側にある窓ガラスに寄りかかっていた男の人は、窓ガラスに素手でビシッとヒビをいれたのだ。思わずあんぐりと口を開ける。
「…つまらぬ」
独り言のように話しているが、明らかに私達がいることを分かっている。
「足音を聞く限り…『手強い』と思える者が1人も居らぬ。精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのぬ…だ」
精鋭部隊出身の引率の教師…って、烏間先生の事か。
「どうやら…『スモッグ』のガスにやられたようだぬ。半ば相討ちぬといったところか。出てこい」
スモッグ、の所で莉桜がこちらを見てきた。その顔は引き続き驚きの顔だ。…まあ忘れる訳ないよね、やらかしたこっちが悪いんだけどもとりあえず口に人差し指を当てる。皆でそろそろと男の人の前に出て、正面に立つ。
……うん、わかるよ皆が言いたい事……。
「『ぬ』多くね、おじさん?」
言いたい事をズバリと言ったカルマ君はいつも通り爽やかな笑顔を浮かべた。
「『ぬ』をつけるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだ。カッコよさそうだから試してみたぬ」
つまるところ男の人は外国人、ってこと。パッと見背高いし鼻も高い。
「間違ってるならそれでも良いぬ。この場の全員殺してから『ぬ』を取れば恥にもならぬ」
ゴキゴキっと手の関節を重々しく鳴らす男の人。
「素手…それがあなたの暗殺道具ですか」
殺せんせーが球体でそう言うと、さも当たり前だという風に頷いて、
「こう見えて需要があるぬ。身体検査に引っかからぬ利点は大きい」
と言った。どっちかというとこの姿の殺せんせーに全く驚いてない事の方が衝撃なんだけど……。
「近付きざま頚椎をひとひねり。その気になれば頭蓋骨も握りつぶせるが」
その言葉に思わず鳥肌が立つ。同じように鳥肌を立てていた岡野さんと目線を合わせ眉をひそめた。
「だが面白いものでぬ。人殺しのための力を鍛えるほど…暗殺以外にも試してみたくなる。すなわち闘い。強い敵との殺し合いだ」
……元気だったら、烏間先生と殺し合いでもする気だったのだろうか?
「……グリップ」
私は今度こそ莉桜に聞こえないように外国人の男の人の名前を呼んだ。