第28章 沖縄旅行は海の香り
そんな張り詰めた空気の中一人のほほんとしている球体。
「いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ」
顔に太陽を浮かべた殺せんせー。そして向く皆の白い目。
「何をお気楽な!!」
「ひとりだけ絶対安全な形態のくせに!!」
「渚、振り回して酔わせろ!!」
「にゅやーッ!!」
ヒュンヒュンとビニール袋を回され悲鳴をあげる殺せんせー。とても月破壊生物とは思えない。…まあそれもそうか。これからの1年間の象徴になったあの三日月。その状態にしたのは殺せんせー…と思われてるけど、実は違うんだもんね。
「よし寺坂。これねじこむからパンツ下ろしてケツ開いて」
「死ぬわ!!」
…って何、私余計な事考えてんだ。とにかくこのホテルから無事脱出しないと。
「殺せんせー。何でこれが夏休み?」
酔った様に顔を青ざめさせる殺せんせーに渚君はビニール袋を持ち上げて聞いた。
「先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは、先生の保護が及ばない所で自立性を養う場でもあります」
先生と生徒は馴れ合いじゃない、か…。じゃあ私と烏間先生やイリーナ先生との関係はどうなるんだろう?
「大丈夫、普段の体育で学んだ事をしっかりやれば…そうそう恐れる敵はいない。君達ならクリアできます。この、暗殺夏休みを」
殺せんせーが透明な球体の中から余裕そうに笑った。いつも通り歯を見せて。
……うん、今は余計な事考えない。私はさっきの言葉をもう1度繰り返す。全員無事で、このホテルから脱出。それが目標で、義務だから!
階段を上って5階。いよいよ半分の所まで来た。左は大きい柱、右側は身長より高いガラスがずっと続く。そんな展望回廊で、そいつはいた。
「!!」
先頭を歩く寺坂の足が先程の烏間先生のようにピタリと止まる。それに気付いて皆が寺坂の後ろからそっと覗き込むと、髪が長めの背が高い男の人がガラスに沿って立っていた。
「………お、おいおい。メチャクチャ堂々と立ってやがる」
「…あの雰囲気」
小声で喋りながらも男の人から目を離さない。
「…ああ、いい加減見分けがつくようになったわ」
吉田くんが目を細めて言った。
「どう見ても、『殺る』側の人間だ」
殺る側の人間。つまり、私達の第二の敵…というわけだ。狭いが見通しの良い展望回廊は、奇襲もできない上に人数の多さも役立たない、だっけ。
