第28章 沖縄旅行は海の香り
その瞬間を皆は見逃さなかった。男の人が来た方をすぐさま塞ぎ、机や壺、その辺にあった飾りの槍を持ち威嚇。明らかに焦る男の人。
「敵と遭遇した場合…即座に退路を塞ぎ連絡を断つ。指示は全て済ませてある」
象すら気絶…と言われたガスを受けた烏間先生は立ち上がった。バケモンだ……。
「おまえは…我々を見た瞬間に攻撃せずに報告に帰るべきだったな」
しかしフラフラだ。烏間先生もだいぶ無理している。
「…フン、まだ喋れるとは驚きだ。だが、しょせん他はガキの集まり。おまえが死ねば統制が取れずに逃げ出すだろうさ」
男の人はまたガスを出して今度こそ烏間先生を殺す気…らしい。でも、そんな事させないよ。
2人がじり、と対峙する。余裕そうな男の人に対して目の焦点が合っていない烏間先生。
男の人がポケットからまたガスのボタンを出す。しかしそのボタンが押される事は無かった。
烏間先生は男の人の頭を思い切り蹴りあげた。男の人の帽子が吹っ飛び、顔が歪む。
男の人が倒れると同時に。
烏間先生も、力尽きたように倒れた。
「烏間先生!!」
皆が持っていた机や椅子で倒れた男の人を隠す。
「……スモッグ…」
「? 京香、何その…言葉?」
スモッグ、というだけの言葉に莉桜が目敏く(耳ざとく)反応する。今だけ、私が知ってる男の人の名前だ。
「……後々分かるよ。あ、覚えてない方が有難いかも」
「???」
莉桜はよく分からない様子ながらも「…オッケー」と小声で呟いた。スモッグは今烏間先生に倒された男の人だ。毒物使いで、今回のドリンクにウィルスを紛れさせた人で……この後出てくる2人の暗殺者の、仲間。覚えてもらっちゃ、私が何でこの男の人の名前知ってるのか疑われちゃうしね。
「…ダメだ。普通に歩くフリをするので精一杯だ」
その声に思わず振り向くと、烏間先生が磯貝君に支えられながら何とか立っている状態だった。足もガクガクと震えている。
「戦闘ができる状態まで…30分で戻るかどうか」
そんな烏間先生を見て
「象をも倒すガス浴びて歩ける方がおかしいって」
「あの人も充分化け物だよね」
という困り顔の会話。
そして…皆は思い知る。この1時間にも満たない時間の中で見てきた、プロの凄さ。今、頼りになっていたイリーナ先生にも烏間先生にも、殺せんせーにも頼れない不安。ちゃんと、皆を助けられるのかな。
