第28章 沖縄旅行は海の香り
その男の人の言葉に反論するように、不破さんは人差し指を突き立てて説明しだした。
「皆が感染したのは飲食物に入ったウィルスから。…そう竹林君言ってた」
だから飛沫感染力は低い、っていうのが竹林君の見立て。
「クラス全員が同じものを口にしたのは…あのドリンクと、船上でのディナーの時だけ。けど、ディナーを食べずに映像編集をしてた三村君と岡島君も感染した事から、感染源は昼間のドリンクに絞られる」
そのドリンクを配った人物が犯人。つまり……
「従って、犯人はあなたよ、おじさん君!!」
立てた人差し指をピッと男の人に向けると、
「ぬ…」
と観念したように男の人は顔を歪めた。
「すごいよ不破さん!!」
「なんか探偵みたい!!」
と褒めちぎる渚君と茅野ちゃんに
「ふふふ」
と嬉しそうに笑う不破さん。
「普段から少年漫画読んでるとね、普通じゃない状況が来ても素早く適応できるのよ。特に探偵物はマガジン・サンデー共にメガヒット揃い!!」
……不破さんがさらりと言った言葉に頭がついていかなかった。
「……マガジンとサンデー、あるの?」
「東尾さん何言ってるの、私がたまに遅れて学校来るのはマガジンとサンデー買ってるからだよ」
思わず戦いの最中なことを忘れて私は不破さんに聞いたが、答えは変わらなかった。
「……ジャンプは?」
「……ジャンプ? 何それ」
私は張り詰めていた息をふう、と吐いた。
暗殺教室が連載されていたのはジャンプだ。サンデーとマガジンはこの世界にあるんだ…。今度買ってみよう。
「…クククク」
唐突に、男の人は笑った。それが合図だっかのように、ガクリと烏間先生が膝をつく。
「!!」
「毒物使い…ですか。しかも実用性に優れている」
殺せんせーが烏間先生を見て汗を流す。
「俺特製の室内用ガスだ。一瞬吸えば象すらオトすし、外気に触れればすぐ分解して証拠も残らん」
外気と中の空気って何か違いがあるのだろうか…とにかくそういうガスを烏間先生に浴びせたんだ…さっき。
「ウィルスの開発者もあなたですね。無駄に感染を広げない。取引向きでこれまた実用的だ」
殺せんせーがそう話すと
「さぁね、ただ、おまえ達に取引の意思が無い事はよくわかった。交渉決裂、ボスに報告するとするか」
男の人は私達に背を向けた。