第28章 沖縄旅行は海の香り
『はい、内部マップを表示します』
ピピピ、と機械音が聞こえ、スマホにマップが表示されると同時に律の声が流れ出した。
『私達はエレベータを使用できません。フロントが渡す各階ごとの専用ICキーが必要だからです。従って階段を登るしかないのですが…その階段もバラバラに配置されており…最上階までは長い距離を歩かなくてはなりません』
マップには十階プラスへリポートの屋上までのマップが表示された。ロビー、中広間、展望回廊、テラス、コンサートホールなど通らなければならない地点はいくつもある。
「テレビ局みたいな構造だな」
「?」
「テロリストに占拠されにくいよう複雑な設計になってるらしい」
と千葉くんが解説を入れる。今倒れてる三村くんがいたら、この解説は三村くんがしてたのかな…。
「こりゃあ悪い宿泊客が愛用するわけだ…」
そして烏間先生が裏口の扉に手をかけた。
「行くぞ、時間が無い。状況に応じて指示を出すから見逃すな」
スゥ、と中の光が外へと零れだし、私達は即座に屋内に入った。なるべく音がしないように歩くと、烏間先生の足は早速止まった。
烏間先生の目前には…ロビーだ。ロビーを通らなければ上に行けない構造になっている為警備も厳しく、予想より多い。非常階段はロビーに入ってすぐ右のところだけど、通用口(しかも崖が目の前の)から出てきた中学生15人弱。目立って仕方が無い。
しかし私はホッとため息をついた。……いる、この状況をどうにかしてくれそうな…というかする人が。
「何よ、普通に通ればいいじゃない」
イリーナ先生が近くに置いてあったワイングラスを手に呆けた雰囲気で言った。
「〜!!」
「状況判断もできねーのかよビッチ先生!!」
「あんだけの数の警備の中どうやって…」
と男子共が小声で責める。イリーナ先生はふ、と目を横にやり、奥にある白いピアノに目をつけた。
「だから普通によ」
背中にリボンがついたドレスを翻し、フラフラとイリーナ先生は歩いてゆく。勿論警備が気付かない訳は無いのだが、その目はすぐハートマークになった。
「あっ」
そして警備のひとりに軽くぶつかりよろける。
「ごめんなさい、部屋のお酒で悪酔いしちゃって」
ワイングラスを手に頬を紅潮させ困ったようにウインク。
「あ、お、お気になさらずお客様」
警備も骨抜きだ。明らかに照れた顔。
