第28章 沖縄旅行は海の香り
「律さんに頼んだ下調べも終わったようです」
スパイのような格好をした律はスマホの中でウインクをした。
「元気な人は来て下さい。汚れてもいい格好でね」
車に乗せられて着いた先は、先ほど話に上がった『普久間殿上ホテル』……の裏手。ほぼ直角の崖の上に立つホテルを、私達は見上げた。
「……高けぇ…」
近くでみるとかなり高い崖を皆で眺めていると、スマホから機械の音が聞こえた。
『あのホテルのコンピュータに侵入して内部の図面を入手しました。警備の配置図も』
そう、律の声だ。
『正面玄関と敷地一帯には大量の警備が置かれています。フロントを通らずホテルに入るのはまず不可能。ただひとつ、この崖を登ったところに通用口がひとつあります。まず侵入不可能な地形ゆえ……警備も配置されていないようです』
皆のスマホにその配置図と地図が送られる。私のスマホにもバイブ音と共に画像が送られてきた。確かにそれを見るとあの崖の上の扉だけは警備がいないようだ。
「敵の意のままになりたくないなら手段はひとつ。患者10人と看病に残した1人を除き、動ける生徒全員でここから侵入し、最上階を奇襲して、治療薬を奪い取る!!」
ビニール袋に入った殺せんせーは、いつもの顔でそう言った。
「……!!」
驚く皆とは相対的に渋い顔をしたのは烏間先生。
「…危険すぎる。この手慣れた脅迫の手口。敵は明らかにプロの者だぞ」
「ええ、しかも私は君達の安全を守れない。大人しく私を渡した方が得策かもしれません。どうしますか? 全ては君達と…指揮官の烏間先生次第です」
先生同士の会話は少し難しい。でも、きっと……
「………それは…ちょっと…難しいだろ」
崖の急角度を見て皆は言った。ついてきたイリーナ先生も同意。
「そーよ、無理に決まってるわ!! 第一この崖よこの崖!! ホテルにたどりつく前に転落死よ!!」
……殺せんせーの言葉は、私達に意見を求めてるんでしょう?
本当にこのままでいいのかと。ウイルスにかかったE組の皆を、自分自身で助けたくないのかと。……なら。
私達は崖に手をかけた。
「いやまぁ…崖だけなら楽勝だけどさ」
下で烏間先生とイリーナ先生が驚くのがわかる。そりゃそうか。烏間先生、今茅野ちゃんと渚君に頼もうとしてたもんね。
「いつもの訓練に比べたらね」
「ねー♪」
