第24章 二つ島~治療~ ★
波によって浸食された巨岩は天然の洞窟を形成し、容易には人の侵入を許さない。
気の遠くなるような年月を経て、海岸線が変わって行ったのだろう。
洞窟の下の乾いた砂は時折、海風に踊る。
その先の砂はグラデーションを描くように変化していく。
今まさに波が寄せているところは、最も水分を多分に含んだ濃色だ。
それよりも大分淡色の、洞窟を抜けた辺りにマルコは立っていた。
そのマルコに半ば抱きかかえられるように立っている沙羅。
空を飛ぶ鳥しか来訪できないこの場所は、マルコが以前、探索した時に見つけたお気に入りの場所だった。
吸い込まれそうな星空とそれを微かに映す静かな海に、瞳も心も奪われた沙羅は、暫く微動だにしなかった。
空には星の瞬きを見守るような有明月。
あまりにも美しい光景に、時を忘れてしまったかのような沙羅をマルコはそっと促した。
それに小さく頷くと、マルコの手を離れて優しく煌めく海へと進みだす。
マルコは近場の岩に寄りかかり、その背中を見守る。
少し歩けばすぐに波が足をくすぐる距離で沙羅は足を止めた。
「?」
何かあったのだろうか、寄りかかった背中を浮かせ、そこでマルコは息を詰めた。
「・・・」
身に纏っていた浴衣を無雑作に脱いでいく沙羅の肩が、背中が露わになっていく。
色白の清らかな肌を有明月と星々の光が柔らかく包む。
「・・・」
マルコは詰めていた息をゆっくりと、はき出した。
焦った。
さすがに、この豊かな自然に美しさを増した沙羅に、素肌を全て晒されたら欲望を抑えられる自信がなかった。
かといって青姦の趣味もなければ、経験のない沙羅にそれをするのも憚られた。
再び、背中を岩につけ沙羅のしなやかな肢体を眺めた。
至る所にある傷が痛々しい。
「ー♪ー♪~♪♪~♪~~♪」
波音に乗って流れてくる歌声。
沙羅の輪郭が空気に溶ける様に滲む。
真っ直ぐに有明月を見上げ、伸ばされた手から青白い光が泡のように現れては消えていく。
『オカエリ』
『オカエリ』
『ワレラノオウ』
“?!”
耳に直接木霊する不思議な声にマルコは、目を見開き、小さく笑った。
今更驚くことではない。沙羅は海に愛された存在なのだ。
他の者ならば、奇妙に思うことも、気味悪がることもマルコには些細なことだった。