第23章 二つ島~危機~
静まり返ったモビーディック号に響く波音が、これから発せらる言葉をカウントダウンしているようだ。
その中を、ゆっくりと力強い足音が移動する。
太陽の元に現れた世界最強の漢、
白ひげ、
エドワード・ニューゲート。
「俺の家族に手を出す奴は・・・」
大気が、震えた。
「命をかけろぉ~~~~~~!!!!!!」
瞬間、
不気味な揺れと共に海底が盛り上がった。
甲板にいた全員の視線が釘付けになる。
海が割れ、
海底が次々に隆起する。
それは、
港の先端の先に遠くぽつんと浮いている島を
あっという間に半島にした。
これがたった一人の男の所業だと言ったら、一体誰が信じるだろうか。
目の前で起こった事象に、頭がついていかない。
「イゾウ」
白ひげの声にはっと我に返ったイゾウ。
「落とし前は片手で充分だよなぁ?」
その金色の瞳から放たれた確信めいた期待。
「あぁ、ざっと5000人、軽いもんだ」
その期待に応えられないようでは、隊長は張っていない。イゾウは妖艶な笑みを浮かべた。
「一人1000人かぁ」
サッチが、緩く呟くと同じようにモビーディックから一直線に伸びる道に飛び降りる。
「馬鹿野郎、一人5000人だ」
ジョズはサッチを怒鳴りつけながら、その巨体に反して一瞬で飛び降りる。
「オヤジ、俺も行っていいか?」
少し遠慮がちに、それでいて、思い詰めるようにナミュールは声を上げた。
白ひげは5人で行けと言った。
イゾウ、サッチ、ジョズ、そして先程立候補しているマルコ。
残るはあと一人。
順当にいけば、昔馴染みのビスタだろう。
だが、ナミュールはどうしても行きたかった。
魚人族である彼に取って、それ程に沙羅は特別な存在だった。
恋愛感情ではない。
強いて言うなら姫君と騎士のような主従の感情。
主を傷つけられたナミュールは、どうしても敵を取りたかった。
「・・・行くよい、ナミュール」
黙ったままの白ひげを受けて、そう言ったのはマルコだった。
自身も既に、抑えきれない闘志に、蒼い炎をちらつかせながら船べりに立っている。
「おう!」
ナミュールが海に飛び込む。
と、同時に蒼い鳥が空を翔けた。