第29章 vanilla 〜蒼き焔の行方〜 / 伊達政宗
軽くなった財布とは裏腹、心は満足して、政宗は帰途に付いていた。
木箱を手に遊ばせながら、店主の言葉を思い出す。
『金剛石の石言葉は、永遠の絆。 お幸せにね』
(永遠の絆……か)
思わず、顔がほころぶ。
これを渡したら、舞はどんな顔をするだろうか。
びっくりして目を丸くさせて……
感激して、泣くかもしれない。
そう思ったら、すぐに舞に逢いたくなった。
木箱を懐に忍ばせて、足を早めようとした。
と、その時。
(……なんだ……?)
やけに裏路地がうるさい事に気がつき、政宗はふと足を止めた。
数人の男の罵声に混じって、甲高い女の声が響く。
「静かにしろ、このアマ!」
「いやぁ、助けてっ!」
「そっちも押さえろ!」
あまり穏やかじゃないその声に、政宗は裏路地に足を踏み入れた。
見渡すと、裏路地の袋小路になった所で、男が数人、手をこまねいているのが見える。
その隙間から、チラッと見えた、見覚えのある着物の模様。
(え…………?)
政宗は冷や水を浴びせられたように、血の気が引いた。
蒼い布地に、薄桃色と白の小花柄。
それは、以前自分が舞に贈った着物と同じ。
(まさか…………っ)
ゆっくりとその袋小路の男達に近づく。
着物を乱し、はたから見ればその情事にも見える光景で。
「大人しくしないと、斬るぞ!」
「や……っ誰か……っ!」
数人の男達に手を押さえられ、脚を開かされ……
着物を無残にも破かれた、その女は。
涙で歪めた顔で、叫んだ。
「まさむねぇ…………っ!!!」
(舞………………っ!!!)
「……ってめぇらぁぁっ!!!」
その後の事は、よく覚えていない。
怒りに任せて刀を抜き、そこにいた男達を全員斬り捨てた気がする。
返り血も拭わないまま、気を失った舞を抱き抱え、そのまま安土城へと駆け込んで……
秀吉や三成に問い詰められても、何も答えられなかった。
ただ。 ただ、ひたすらに。
(舞…舞……っ)
アイツの名前だけを連呼していた。